特別寄稿 第三部 ”カド号千里を走る   俊水 (c)
類は車輪を二度発見することはできない…か?

たことになる。
ドライジ−ネ開発公社のキャッチコピーが「神の贈りし乗りもの」だったのもあながち誇
大広告とは言えまい。
同じ仕事量に耐えるにも、負荷に晒され(さらされ)ている時間が半分だと、実際には同じ大量のエネルギーを消費していても、半分しか消費していないような まだ半分残っているぞ、との錯覚を大脳にて代入計算しておのれをリフレッシュさせ、もう一本行くぞ!と雄叫(おたけ)ぶ不思議さを人間は持っているらしい。(やっぱり神がかっているのかなぁ)
では、ためしに、「もう一本行くぞ!」のバイカ−に、よし!行け の旗を振ったらどうなるかやってみよう。
彼は脱兎のごとく復路に飛びだし、快調に距離をのばす。すでに1.5時間かけて42.2kmを走っているのに、早いはやい、往路より早い、ランナーズハイ 現象(本編第一部「無沙汰の詫び状」に詳細)に後押しされながら、走る はしる、途中、疲労の表情を見せながらも補給もうまくいって二本目をゴールする、 一本目と同じ1時間30分だった。
バイカ−はランナーと同じ3時間かけて、ランナーの二倍の84.4kmを走ったことになる。
ここでバイカ−が息も絶え絶えに倒れ込めば「エネルギー不変の法則」が証明される。はずなのだが、なんと、彼は両手を突き上げ指でVサインを左右ふたつも 示し、手放しでペダルを漕ぎながらフィニシュラインを歓喜の笑顔で、しかもゴール前スプリントの猛スピードを維持したまま駆け抜けたのだ。
そして、Uターンして戻って来た彼は、信じ難いことに、もう一本!と人差し指を立てる。
やいやい、バイカ−のバカ−ッ お前には宇宙の法則が通用しないのか?! ここは第三惑星、地球ぞ、金星やないで−、三次元で出来とるんや、ちっとは疲れろッ! 法則論者のワシに恥かかすな−。
 おかしな賛辞だが、これが自転車の魔術、神のトリックの真骨頂である。
普通のスポーツ愛好者は、同時にスタートしたマラソンランナーがゴールするまでに、彼の倍の84.4kmを走破した事実に満足してここで自転車を降りるだろう。
そして「オレは今日バイ・マラソンを完走した、しかも3時間だぜ」と自慢げに話す。
それはそうであろう、嘘ではない、事実である、認定証が欲しくば発行もしよう、だが、
足で走ったマラソンランナーと自転車とを、単純に時間と距離で比較するのはフェアでない、自転車には神のトリックが隠されているのだから。
 自転車は左右の脚でペダルを交互に踏んで動力をつくり、ギヤとチェーンを介して車輪を回転させ、車軸に繋がる(つながる)フレームとその上に跨がる動力源の人間を一体にして前に押し出す乗り物である。
単純な仕掛けだから軽量である、ゆえに動物界では非力な部類に属す人間でも自分ひとりを動力源にして虎やライオンと同等の最高速度を得ることを可能にした。(ただし、最高速度を持続する時間は同等ではないが)
ペダルを軽くゆっくり踏めば、ゆるゆると、強くはやく踏めば、猛々しく、坂も登れば水
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