特別寄稿 第三部 ”カド号千里を走る   俊水 (c)
類は車輪を二度発見することはできない…か?

 長い説明になったが、ライディングフォームに乱れがない理由の説明がついた。
答えは、これ以上リラックスに徹したフォームなど、はじめからないのだ、乱れようにも、崩しようにも、これ以上のユルさはないのだ。
 実際、プロのロード選手がハイスピードで駆け抜けて行くフォームを真横からの写真で見ると、骨盤を立て背中を大きく湾曲させ、腹は突き出した野放図なスタイルだ。
この背中“ラクダのコブ”と呼ばれスタミナ溢れる走りの原動力とみられている。
 自転車における神のトリック最後のタネ明かしを急ごう。
筋肉には速筋細胞と遅筋細胞があったことを思い出していただきたい。
速筋細胞は酸素なしでも瞬発のパワーをひねり出し、遅筋細胞は逆にたっぷりの酸素を細かく張り巡らした毛細血管で受け取ることでミトコンドリアの持続力を保証する。
自転車を走らせる脚の回転力の出力を、踏み込み足である脚の前側筋すなわち脛(すね)部と腿の速筋細胞で説明したのが前述のt0 = t1 + t2 の式だった。
これはヴィンディングペダルなしのペダリングの場合だったが、ヴィンディングペダルとクリート靴でペダリングしたなら、どうなるか?
単相交流の横軸に波型の出力が現れるPV線図上に180度位相を遅らせてもう一本、波型の線を描き加えることになりはしないのか?
単線二相交流のPV線図を想像していただきたい、V(電圧=この際は脚出力値)の最大値は同じだがP(時間内のピッチ=脚出力の回数)が倍になっている。
 ヴィンディングペダルの発明は脚の裏側筋、すなわち、ふくらはぎとハムストリングの“遅筋細胞強力部隊”が、出力側へ“助っ人参加”することを可能にしたのではないか?
 無負荷の位置戻しだけ、といわれていた引き脚時にもトルクの供給を得て、自転車はスパーマシンに激的変化をとげたといえる。
ごくつぶし とのいわれなき汚名を返上して、引き脚の195度帯に遅筋細胞のじっくりパワーがトルキ−男の助っ人マンどころかレギュラーの先発メンバーとしてスコアボードに堂々名を連ねたのだ。
 筋肉は収縮してチカラを発揮し、弛緩して回復する。
クランクの上死点から下死点に向かう踏み込み時は前側瞬発筋で、下死点から上死点に向かう引上げ時には持久性の高い裏側遅筋で働き、360度すべてとは大袈裟ながらもほぼ全域でトルクの授受が行われるのだ。
しかも踏み込み時は裏側遅筋細胞が弛緩して超回復し、引上げ時には前側速筋細胞が休息する。
一連の出力と回復の繰り返し。
だから自転車をサイクルと呼ぶ。
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