特別寄稿 第三部 ”カド号千里を走る   俊水 (c)
類は車輪を二度発見することはできない…か?

ない、四つ足から直立二足になったことが問題なのだ。
目 を持つ頭部を先頭にして脊椎から盤骨、大腿骨へ繋がるラインは何億年もの間、緩やかなカーブを描き釣針型にもと来た方向へ曲がってその先に後肢を構成して いた。前肢で方向性を決め後肢の強い駆動によるバウンシングやジャダ−をうまく受け流して、流麗に山野を駆け回って食料を獲ていたはずだ。
直立のきっかけになったのはたぶん、高樹の枝の果実を他の者に先んじて獲ようと後脚のみで立ち上がる習慣が、利益誘導の姿勢が、卑しき自己優先の思想が、霊長類の思い上りが、直立の手助けをしたこと疑いなし。
 自分と自分の子がいま食べる分を採ればそれ以上は獲ることのない、こころ優しき正しき四足歩行者たちは、いまもかたくなに四足の伝統を守って平和に暮らす。
自力捕食の自由を人間により奪取され、繁殖さえも人間に管理された一部のペットの動物が、生命存続のギリギリの判断により、やむなく 父祖の伝えた誇りを捨て、後脚二足で立ち上がり痛みに耐えてヒョコヒョコと歩いて見せてはご褒美の食糧を得る。
あの者たちの顔をよく見るがよい、嬉しそうに見えるのか。
屈辱に耐えるあの者たちの顔に「カ−ワイィ」などと声をあげるあなたたちは、虐待者か。
 え− さて、人類の歴史は直立二足歩行の瞬間から始まったといわれているが、同時に人類は腰痛に悩まされる歴史を合わせ持つことになる。
 人間の赤ん坊がハイハイして進む元気な様を見るのは楽しい、自分の孫の姿ならなお嬉しいものだろうと思う。
戒律により妻も子も持たぬ拙僧には終生味わえぬ感情だが、思いはわかる わかるとも。
わからずして仏道の得度が得られるものか−ッ (落ち着け おちつけ)
頭をあげてハイハイする元気な赤ん坊を、ヒョイと摘みあげてロードレーサーの上にかぶせてみたら、手と尻と足、それぞれの位置が違和感なくポジショニングしまいか?
ハイハイスタイルはもしかしたら人間の一番楽で、一番自然な、一番効率的なフォームなのではあるまいか?
 拙僧のように自転車を始める動機が、腰痛、膝痛だった者には、立って歩くより自転車に跨がり骨盤を前傾させ背をネコ背にしていたほうが楽なことがよくわかる。
脊椎や頚椎は自然に湾曲しているときに骨間隙間が平均的になっている。
直立、気をつけでは、反らせた反対側の隙間が狭小になって骨同志の接触干渉が起こる。
若いうちには軟骨の緩衝作用で何ともないが、定年が話題となるこの頃ではコラーゲンやヒアルロン酸を補強していても軟骨量の減少、組成の脆弱化は免れず、骨間隙間の不均衡は骨の間を通る神経繊維を押しつぶし、痺れる痛みをもたらすことになる。
直接接触した骨面が擦れ合えば剣山に鑢(ヤスリ)を掛けたようなもの、椅子から立ち上がるたび、階段を昇るたびアイテテテとなる。
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