特別寄稿 第三部 ”カド号千里を走る   俊水 (c)
類は車輪を二度発見することはできない…か?

らの片足ケンケン走り、足裏に砂粒一個でも残したまま靴を履いて走ったらどうなる?
オフィシャルスタッフがこのエリア(トランジットエリアという)を精緻に清掃していても屋外ゆえにトラブルはあろう。
すでに背のゼッケンは汗に滲み(にじみ)風圧にほつれ、タイヤの跳ね上げた泥が背中に一本の黒い縞となってナンバーなど読めず、腿と肩にスタンプされたカテゴリー識別の不滅インキも落車の摩擦と血に流れ、誰がだれだかわからない。
足首と手首にICチップを内蔵したオレンジ色のラバーリングを巻いている。 GPS衛星アイアンホ−ス号がICチップの軌跡を追っていて、それだけが彼の現在位置と順位を知るよすが。
オフィシャルのコンピュータ地図画面に点滅して移動するグリーンの星が彼、点滅をとめた星は向い風の海に沈んだライバルか。
 アイアンマンハワイ 鉄の意思で走り切った完走者に手渡されるのは、太鉄のはりがねを折り曲げて胴体にみたて、頭部にナットを溶接しただけの素朴な黒い鉄人形ひとつ。
 ふだん無口で陽に焼けた 酔えばおどけてみせる男が死んで、機械油の匂い染み込んだ一人暮らしのあばらやで遺品の整理をしていたら、黒い鉄人形と擦り切れ汚れたオレンジ色のラバーリングが、子供を抱いて奥さんと写る古い写真と一緒に出て来た。
そんなシーンで始まる映画があってもよいのでは。
拙僧 よろこんで主演いたすぞ、助演には忌野清志郎と片山右京を指名する。
映画制作資金の送達先は「植村直美冒険ッ賞基金」の口座番号にて可。

 拙僧が定年後に出走を期し準備しているハワイのレースは、スイムとランの無いバイクだけの楽ちん100マイルレース、制限時間11時間、前後の選手とお喋べりしながら走り切れる160Kmだ。
なにを喋べるかって? 決まっとろうがや 「We Can Do It!」
ワシはフィニッシュ時の練習も欠かさない、両腕をVに広げて左右の指にもV! 手放しで踏んでもこの際はルール違反に間われない。
フィニッシュのテープは最後の選手がゴールするまで、何度も張り直される、選手は何位でゴールしてもチャンピオンだ。
自分との戦いに勝利を信じて走って来た160Km、もう少しで辿り着く(たどりつく)アンダ−ア−マ−のアーチの下に自分用のゴールテープが見えてきた、テープの端を何人もが握って手を振って待っているのが見える、歓喜の輪をつくりゴールはここだと私の名を呼んでいる、こころやさしき人々の笑顔がはっきりと見えてきた。
完走率が高い理由が納得できる。
拙僧の計算では制限時間を充分残して七時間台でフィニッシュを果たすのは間違いない。
この計算は宇宙の法則にのっとった極めて緻密なものであるからして、間違いないノダ。
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