特別寄稿 第二部 ”風の考察   俊水 (c) 
かって吠えるころに帰って行く。 ときには度を過ごし、狼が穴に戻って眠る頃、よろめく足で畑中を蛇行し、翌朝 延々の足跡を霜の畑に見た仰天の農夫「たまげたな− ゆんべ 熊が出たっぺやー」
無銭のナガタ 普段現金を持たない、カードも持たない、判子もボールペンも持たない、
持っものは何の変哲もない携帯電話。 居酒屋の払いは何日分かをまとめて計算させその場でモバイル技を使って、おかみの口座に振込みのログインをする。  始めのうちこそ手続き完了の画面を見せて信用を得ていたが、翌午前の確実な入金を何度も確かめるうち ガソリンスタンドもコンビニもナガタ方式に違和感を 抱かなくなった。
 隣人が危険の地下道住まい。現金を持たない飲食物を持ち込まない、特に酒 女を持ち込むと必ずトラブルの種となる 裸火を使わない 音を出さない ごみを出さない ものを貰わない、差し出すこともない 出掛ける際には棲家を片付け痕跡を完璧に消し去る。
折り畳むと片手で運べるテントと簡易ベッドを、手洗い所入り口脇の「非常搬送担架」と書いてある大型のロッカーにしまう、電気製品 小物類 ケーブルワイヤーもしまう、後には何も残らない。
すぐ隣に木製の本物の「担架入れ」がある、大型ロッカーはナガタが自分用に設置した偽物だが、じつにシックリとこの位置に収まって誰もそれとは気付かない、唯一 監視所所長を除いては。
出掛けるナガタを数人が見送る、声をかけるでもなく 目を合わせることもないが、皆ナガタを見送る。
路上生活者 ナガタがこの地下道で堂々の王者として風格を誇り、監視所所長をして一目置かせる存在となったのは、それなりの理由があった。
 ある夏の夜 中央広場テント村に酔った若者のグループが乱入して騒ぎを起こした。
オートバイで歩道から入り込み、寝ている路上生活者のテントのまわりを轟音を立てて走り回り爆竹を投げての無法の限り、文句を言った路上生活者をバイクで追い回しテントに火を付けようとした。
 外の騒ぎのやりとりを聞いていたナガタの耳に「リウジ」という名前が聞こえて来た、
無法者グループのリーダーらしい、「リウジ」に聞き覚えがある。
ナガタは起き上がると遠隔スターターで地上の可搬小型発電機を始動させ、電圧計が安定するのを待って照明を点けパソコンの電源を入れた。
電話回線はこれも地上に防水タイプの携帯電話を固定し、長いケーブルをトンネル施設配管の陰に沿わせて引き込んである。
突然 電気の明りがついたテントに、はじめギョッとした無法者グループが何だ なんだと集まって来て、その中のひとりがハードテントのドアに手を掛けたが、ドアは向こうから開き「リウジ お前か 久し振りだなぁ」と声がした。
「何だ てめ−は!」リウジ 強がるが狼狽の色。
「まぁ入れ 話しがある」
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