特別寄稿 第二部 ”風の考察” 俊水 (c)
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と、歩いて近くのコンビニに行きコーヒーと経済新聞を買って戻る。 コーヒーを飲みながらメールをチェックし、椅子に座って新聞にひと通り目を通した頃、 「支社長 いつも早いっすね」と社員がドアを半分開いて顔だけ覗かす。 「オ− お前 今日こそは〇□商事 入金させや−」チラリ目を上げ怪しげな指示を出す。 路上生活者 ナガタ 昼の顔はこわもての営業支社長 営業品目 極めて不詳。 このナガタが何ゆえトンネルの路上でテント暮らしをしているのか、さらに極めて不詳。 彼のトンネル暮らしが快適なものなのか、拙筆で表すのは難しい。もしかしたら風吹きすさぶトンネルに、棄てて来た昔の 寒い遠い北の故郷を想うゆえかも知れぬ。 ナガタ 寒い国から来たスパイか ?知らぬ ワシは知らぬ。 わが国政府が国外への持ち出しに神経をとがらせ、厳しい規制をもって監視しているある機械がある。大手金属加工メーカーや大田区の町工場で普通に見られる 工作機械だが、これの中古品の行方の先々でナガタの姿が撮影されている、との報告は地下道監視所の所長の元にももたらされていて、所長が特別な関心を持つ のは上からの指示でもある。 上とは所属する国土交通省のことでないこと所長十分承知、どこかを知ろうとすることはご法度のこと これも承知。 ナガタ 極東の安全バランスに微妙を醸す(かもす)、と うわさの大物 ゴルゴ・N なのか? 知らぬ ワシは知らぬ 断じて知らぬぞ。 これ以上ワシを責めるなら拙僧は玉川上水に身を投げねばならぬ。 桜桃忌ももう近い。 午後五時 ナガタ支社長退社。 「オー お前ら早よう帰れやー 戸締まりとセキュリティ ちゃんとせーや ほなワシは帰るで−」 ボロのボルボだが役には立つ、サウナに寄って昼間の悪党を絞りだし、ついでにクリーニングを受取りトランクルームにしまう。 ねぐらの地下道内には駐車場は無いからボルボで進入することはない、地上を走って新幹線の下の工事道路を進むとねぐらの真上近く、地下道へ降りる施設階段の入り口がある。 コンクリートの入り口部分は鉄ドアに鍵が掛かっているが、ナガタはどんな手を使ったものか鍵を持っていた。 ボルボを止めたナガタは入り口には向かわず、少し離れた町並みに向かって歩き、一軒の居酒屋の暖簾(のれん)を静かに分けた。 「あら いらっしゃい、寒かったでしょ鍋にする? お酒はいつもの?」 おかみの言葉に無言でうなずき、カウンターの奥の隅に鍵束をジャラリ投げ出す。 無言のナガタ 壁を背にして座る、背後から狙撃されるのを恐れての位置取りか、必ずいつもこの席である。他の客も承知していて、たまに混んでもこの席は空けてある。 無頼のナガタ 背広の内ポケットから何やらいわくありげな紙袋を取り出し、そっと鍵束の横に置く。 無宿のナガタ 毎夜この店で酒を飲み、鍋物や揚げ物 焼き魚で腹を満たし、狼が月に向 |
![]() 一枚 まくる |
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