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特別寄稿 ”われら団塊S”   俊水
  さりながら大兄様  それがしとて日本男子誉れ(ほまれ)の端くれ、祖国同胞一億民衆の窮状知らぬ訳ではありませぬ。不肖わたくし今後受け取れる権利発生する失業給付や介護補助等公的支援金の一部あるいは全部、お上に返上することで微力些少ながら  以て(もって)報国のあかしとする覚悟。
行きがかりとはいえ  見事な覚悟、と言うて下され、大兄どの。

  比叡山別院  悲鳴山浣腸寺山門曲ル洞葺庵(ほらふきあん)にて2泊3日の蕎麦打ち修行 首席総代にて免許となりし拙僧には、退職金の運用や年金受取額の皮算用など以ての外の破戒の所業  堕天の破廉恥(はぢしらず) おのれの飯の心配より大津波に親をなくしたインドネシアの子供たちにワクチンの―箱届けるが 僧としての業め(つとめ)  人としての道。
と信じ、昼は豚カツ定食からかけ蕎麦にかえ  夜はスナックから居酒屋にかえ  ビ−ルを発泡酒にかえ  焼酎は―升瓶の甲種にかえ  カラオケは 2曲までとし、ひたすらに節制の日々を送るこの頃でございます。
  拙僧は節操に生きる… う−ム  深い
 とは申せ  公的支援を返上し  ひとり山に篭り(こもり)  草庵に眠り 岩上に座して世界の安寧を祈るには、病に屈せぬ強靭な肉体とナガタ受刑者をも凌ぐ揺るがぬ確信犯的精神を具え(そなえ)  粗食に甘んじ安酒を好み 醜女(しこめ)を愛する忍耐と 義侠仁侠の志し  山よりもいや高く 海よりもさら深くなければ到底叶わぬこと。

  そこで  そこですじゃ  あの比叡山にて密やかに行われるという千日回峰の行。
尾根を越え雲を跨ぎ  谷を渡り沢を遡行し  ひたすらに走る山中巡拝の荒行。
陽に炙られ(あぶられ)霜に滑り 笹の露を啜り(すすり)木の根を齧る(かじる)  木の葉に眠り朝日に目覚め  眼上の峰々を仰ぎておのれの卑小を恥じる。
  替えの草鞋(わらじ)を背に結び  供も連れずただひとり 頼れるものは、ひと包みの塩握り 死出紐 宝剣 金剛の杖。
 未開葉の蓮を象った絵笠(ひがさ)いただき 覚悟の白装束。
 行(みち)半ば挫折すれば自ら生命を絶つ掟。
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