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内藤 俊水
第二部 「非日常」 9.

夜中に悪夢をみて目が覚めるが前夜酒を飲んでいないから頭は妙に冴えてもはや眠れない、
これ幸いと作業場に降りて図面をチェックしているとこ.ろへ相方も神妙な顔をして現れて、
「なんだ やっぱりか− んじゃ、仕事始めっか」
と朝飯も食べずに作業にかかる。
心配した奥さんが
 「どーしたの二人とも、暗いうちから仕事始めたりしてサー 気持ち悪いねー。
不渡りでも出したのかい?]
おにぎりとタクアンを届けて来る。
昼は普通に食べて作業は順調に進むが、なにしろ暑い作業場に熱い溶接機である。しょっちゅう水を飲んでしのぐ。
夕方になってここでまた昨日のようにカラダの要求水分量を水道の水で飲んだら、腹カポカポの風呂寝るの夜中悪夢の早朝仕事のタクアンでお握りとなる。
 「やだよ− アンタら、どんな悪さレだのサー ワタシが謝ってきてあげるからサー、
何か食べておくれよー あれあれフラフラしてるじゃーないかー、
大変だよー これ、せがれー 紙と筆ペンを持ってきておくれ、いまのうち と−ちゃんに遺言状を書いてもらわなくっちゃねー。 あれあれ やだよー、ワタシ はたち過ぎたせがれを連れて再婚できるかしらねー」
これが完璧な水中毒つまり夏パテである。
 仕事が済んだら仲間とヤキトリでビール、これが正しい夏の夕方の過ごし方なのだ。
水だけ飲むと、水分の摂取速度は遅いのでカラダから「水分満足」の信号が脳に届くまでに時間差が発生しその間に脳は水のガブ飲み指令を出し続けることになる。結果 胃腸に余分な水がいつまでも溢れて膨満感となり、キチンとした食事が出来ない 食べたくない症状を呈する。これを水中毒という。
食べながらアルコール飲料を摂ると、水分の摂取速度は純水より圧倒的に早いからカラダの要求水分量を満たす「信号」は遅滞なく脳に送られ、過剰な量の水を胃腸の巾に溜めずに済む。
いつまでもビールを飲み続けることなく、しかもビールを飲んだ満足感をもたらすにはビールを飲むこと以外にない。ビールサーバーは17°Cカッキリに管理されているべきことは言うまでもない。
また適正なお酒は利尿作用が効いて余分な水分はいち早くオシッコになり、このとき腎臓のフィルターを洗い流す。
飲み始めて最初のションベンは黄色くて匂いもきついが二度目三度目になると無色透明になるのはこのためである。
 「なに 三度目でも泡立って匂う? … そらー アータ 糖尿ですがな 運動不足でっせ 自転車に乗って汗をかきなはれ」
 同時に食べるヤキトリは豊富なタンパク質とミネラルを含み、特に皮には紫外線や溶接の光中に存在する放射線から皮膚を守るコラーゲンが一杯詰まっている。
もし人手可能であるなら料理法は問わないからあの赤い鶏冠(とかさ)を食すべき、あんなおどろおどろしたモノ、他に求めるとしたら海のナマコしかあるまい。
あの赤い鶏冠(とかさ)、ニワトリがつい最近まで恐竜翼竜の仲間だったことの動かぬ証拠。あの赤がヒアルロン酸である。
 ビールをガブリと飲む前に塩をはたき落としたヤキトリを一串食べておけば、動物脂のバリアー効果が胃壁を温度の急変と流体による過洗浄からしっかり守る。
ヤキトリの次に注文すべきは、ピーマンやゴーヤ、ニンジン キャベツ タマネギなどに豚肉をからませた野菜炒めであるが注文の際、塩と胡淑の使用量を少なめに、しかも片栗粉で軽くあんかけに頼むのが肝要である。
さらに葛(くず)粉を人手可能なら、店の棚に名前を書いてストックし専用あんかけ粉とすべき、
外国ジャガイモ由来の片栗粉に対し葛の原料は日本古来種 藤の花の根である。
藤はわれわれジャパンサムライの総祖、藤原鎌足の藤である。
桜に国花の誉れを禅譲したが、本来は藤の花こそ真っ当なる日本の代表花である。
ぼくの家紋が「さがり藤」だからついつい熱弁になるのは鎌足の血の所以(ゆえん)。「国花には藤」に賛意の手を挙げる鎌足ゆかりの藤族は全国に多いのだが、皆さん静かに生きるタイプのひとたちだからあえて世論を騒がす愚を冒さないだけ。
 葛に砂糖と蜂蜜を加え熱湯でかき混ぜるとパワージェルと同じ形容 同じ成分。チューブに詰めて携行し、へたれる前に食べるとアメリカ製パワージェルと比較してパフォーマンスとエネルギーの持ち時間にあきらかな差がでる。
NASAが開発する前に400年も前からわが国には優れたパワージェルが存在した。日本人の胃腸に適ししかも国粋主義満杯の雰囲気がスーパーに楽しい鎌足効果の和風パワージェルだが、難点は売っていないことと自作コストは米国製ジェルの数十倍になること。
ロンドン五輪までにはグリコを説得して瞬発系 持久系など各種量産し、文科省公認ナショナルフーズとして選手団に持たせたい。いやぼくが持って五輪に出る。

 一般に料理人は味の好評価を得んがために濃いめの味付けをしたがる、食べる側の客が彼をいつの間にかそのように仕向けてしまっただけで悪いのは彼ではない、彼とても真っ当な料理とその味付けは知っているから、あなたの申し出は「わが意を得たり」と丁寧にアスリート食を調理してくれる。
 ぼくらのほとんどは医学部に通ったり栄養学を学んだりしたわけではないが、練習のあと レースの前には何をどれ程食べるべきかを知っている。
ぼくらは経験上自分に見合ったアスリート食を知っている。
食べ過ぎたら胃にもたれてペダル回転が上がらない食品の第一位はゆで卵だ なんてことは誰でも知っている。
だが不思議なことに酒はどれ程飲んでもまだ飲みたい。