service  HOME Service 契約書の作成  

4: 「労使問題」 Q
 就業規則はいつから有効となるのか?

就業規則はどの時点から有効になるのですか?
就業規則を労働基準監督署に届け出ていないのですが、この場合、就業規則の効力はないのでしょうか?

就業規則が有効になるまでの手続きはどのような流れになるか?
就業規則を作成したら、即、労働基準監督署に提出とはならない。
  1. 社員に原案を見てもらう
  2. 代表社員を決め、原案に対しての意見をまとめる
  3. 代表社員から会社へ意見書を提出してもらう(代表社員の署名または記名と押印が必要)
  4. 就業規則に意見書を添え、所轄労働基準監督署に提出
  5. 就業規則の内容が誰でも閲覧できるようにする(PDFなどをサーバーに保存している状態でも可能)
 この場合、多くの会社では「就業規則は労働基準監督署の受付印が押印された時から有効」と考えているが、これは間違い。
受付印は関係なく、「就業規則を社員に周知させた時から有効」なのです。そして、周知の方法は法律で決まっている。

それは、
  • 常時、各作業場の見やすい場所へ掲示、または、備え付ける
  • コピーを社員に配布する
  • パソコン等で常時確認できるようにする となっている。
 このとき、注意点としては、
ここでいう「各作業場」とは、「建物ごと」という意味になる。
いくつも拠点のある会社は、就業規則をそれぞれの拠点ごとに設置しないと「周知した」こととはならない。
同じ営業部でも営業1課はAビル、営業2課はBビルという場合、就業規則はそれぞれの課に掲示、もしくは備え付けなければならない。そして、就業規則は社員に周知して「初めて」効力が発生する。
従って、会社の金庫などに保管しているだけでは駄目で、何かトラブルがあった場合でも、懲戒処分すらすることが違法となってしまう。

 もう1つのポイントは、「何をもって周知があったといえるか」。
それは、
  • 社員全員に就業規則が配布されている
  • 就業規則が各作業場の書棚などにあり、いつでも見られる状況にある
    • :いつでも見られる状態なら、管理職の机の中でもOK
    • サーバーなどのPDFファイルを保存しておくことでもOK
などとなっている。

  「周知」の定義の1つに「大半の社員が就業規則の内容を知っている」がある。
しかし、「社員1人1人が就業規則を理解しているか否か」を検証するのは大変ですし、現実的ではない。だから、もう1つの定義である「いつでも見られる状態」を作っておくことが重要。

 就業規則の効力についても裁判等で判断が出ているので、注意しましょう。

 就業規則は労働基準法第89条で、労働基準監督署に届け出なければならないと定められている。
また、届け出をする会社は「常時10人以上の労働者を使用する使用者」となっている。そして、その事務所の所轄の労働基準監督署に提出しなければならない。もし、この届け出を怠れば、労働基準法の罰則が適用となってしまう(30万円以下の罰金:労働基準法第120条)。

しかし、就業規則を作成して、労働基準監督署に提出をしていなくても、就業規則そのものが無効となったり、効力が及ばないということではない。
 これに関する裁判がある。<コクヨ事件 大阪高裁 昭和41年1月20日>
  • 会社は就業規則を作成したが、労働基準監督署に届け出ていなかった
  • 社員が就業規則の解雇の条文に抵触したため、解雇とした
  • 社員は就業規則の届け出がないことは効力がないとし、また、解雇を不服とし裁判を起こした
 そして、裁判所は以下の判断を行った。
  • 就業規則は会社が労働基準監督署に届け出なければならない
  • 就業規則を届け出ていなくても、効力がないということではない
  • 就業規則の内容を周知している場合は、効力は有効である
  • 会社側の主張が通った
 つまり、届け出のない就業規則も有効であることを裁判が認めている。
労働基準監督署に届け出をしないことは法的には違法だが、就業規則の効力そのものの有効性とは別に考えないといけない。

 また、就業規則を作成したら、社員に内容を知らせないといけません。労働基準法第106条では以下となっている。
  • 「就業規則を常時作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他(※)厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない」
    • (※)社内のイントラネット等で就業規則を閲覧可能にしておく
 では、届け出はしたが、この「周知]を欠いた就業規則という場合、これは有効か?
 これに閲する裁判がある。<フジ興産事件 最高裁 平成15年10月10日>
  • 就業規則の効力が有効となる場合は、社員にその内容を周知する必要があるので、本件懲戒解雇は無効である(会社敗訴)
 このように社員等に周知がなされていない就業規則は「無効」となる可能性が高い。 

就業規則を作成しても社員に公開せずに、会社の金庫にしまっている会社があるが、このようなことにならないためにも、就業規則を作成したら、社員に周知することが重要なのです。
 紛争の自主的解決とは?


当社は、従業員約30名の食品卸会社で、創業以来35年間、労使関係も比較的良好でしたが、最近の厳しい経営環境から、今後は賃金をはじめ労働条件をめくるトラブルなども懸念されています。
もしもトラブルが発生した場合は、できるだけ社内において解決するよう考えていますが、そのためには企業側の対応としてどのようなことが求められているのでしようか?

紛争当事者である労使においてまず早期に誠意もって話し合うことにより、お互いの主張を確認し、問題点を整理すること。
労使で直接話し合うととが困難な場合は、第三者を介して話し合いを行うことなどが求められます。
  • 企業内で労使トラブルが発生した場合の「紛争の自主的な解決」について、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平13.7.11法律112号)第2条では次のように定められています。
    「個別労働関係紛争が生じたときは、当該紛争の当事者は、早期に、かつ、誠意をもって、自主的な解決を図るように努めなければならない。」

  • いわゆる「努力義務規定」ですが、具体的な内容については、関連通達で次のとおり示されています。

    努力義務の具体的内容

    • 本条(法2条)により、紛争当事者である労使においては、具体的には、まず、早期に、誠意をもって話し合うことにより、互いの主張を確認し、問題点を整理すること、又は、紛争当事者が直接に話し合うことが困難な場合には、第三者を介して話し合いを行うなどにより、企業内での解決に努めることが求められることとなること。
    • このような話し合いを促進するためには、労働者から苦情が申し立てられた際に対応するのみならず、あらかじめ、企業内において、労働者からの苦情を受け付けてこれを処理するための仕組みを整備しておくことが望ましいこと。
      具体的には、苦情処理の仕組みを明確化して労働者に周知する、不満・苦情を受け付ける担当者・窓□を設ける、紛争処理機関を設置するといった様々な方法が考えられるが、如何なる方法をとるかは、各企業の労使に委ねられるもめであること。(平13.9.19厚労省発地129第3「2」)
  • このように、自主的解決のためには、その場だけの一過性の対応ではなく、企業内において労働者からの苦情を受けて、これを処理するしくみを整備しておくことが望ましいとされています。
    • 例えば、社内に苦情処理機関としての「相談室]を設置することなどが考えられますが、どのような方法とするかは各企業の実態に即した対応策を講じることとされています。
  • 現在まで比較的良好な労使関係で推移してきたとしても、今後トラブルの発生が懸念されるようであれば、こうした時期こそ、紛争を未然に防止するため就業規則や諸規程を見直す絶好のチャンスでもあります。
    企業の実情に応じて、それらを見直すとともに、従業員との意見交換の場や職場のコミュニケーションなど、労務管理全体の整備に取り組むのもよいでしょう。 
 人事異動のトラブルを防ぐには

異動とは社員の職務内容や勤務場所を変更することをいいますが、これで会社と社員がトラブルとなることがあります。
特に転居を伴う場合、社員に対し負担も大きくなるので、異動拒否などが発生するのです。

しかし、「異動命令=業務命令」なので、基本的には従わなければいけません。もちろん、だからといって何でもOKではなく、育児、介護などの社員の事情も考慮しなければなりません。

では、異動命令が法的にどのようになっているのか、みてみましょう。
  1. 労働契約上の根拠があること →就業規則などに配置転換等が可能である旨が記載されているか
  2. 労働契約が職種限定、勤務地限定の契約ではないこと
  3. 異動命令の濫用ではないこと
この3つが法的に必要なのです。
  • まずは、1.について解説します。

    • この旨の記載が就業規則等にある場合、業務命令としての権利の根拠となります。さらに、入社時に「この就業規則を守ります」という内容で、誓約書にサインをもらうことをお薦めします。
    • 就業規則の全てを守る旨の書面を交わすことにより、この記載事項全てに同意をすることとなるのです。そうすれば、就業規則に基づく業務命令としての異動がさらに強化されるのです。
  • 次に、2.についてです。

    • 社員との間で職種限定や勤務地限定の条件を労働契約に盛り込んである場合、一方的な配置転換等を命ずることができません。
      この場合は社員の同意が必要なのです。逆に言えば、これらの条件の記載がなければ、一方的に異動命令を発令できるのです。
  • 最後に、3.についてですが、判例等では以下のポイントが重要となっています。

    • 業務上の必要性
    • 異動する社員の選定が合理的かどうか
    • 社員にどの程度の不利益を与えているか
    この3つが重要なのですが、特に3番目の判断は難しいです。
    裁判でもこの点が争いのポイントとなっていますが、最高裁の判断では「不当な動機や目的をもってなされたケースでない限り、異動は業務上の必要性がある」と判断しています。

    だから、「人事は合理的な範囲で会社の自由」ということなのです。
    また、家族の介護などの事情がない限り、単身赴任程度では不利益ではないといえます。
結果として、会社は「何をすべきか」というと、
  • 就業規則等に異動の内容を記載し、入社時に誓約書をもらう
  • 育児、介護等の事情を考え、人事異動を行う
  • 単身赴任等の場合は社宅などのケアを行う
ということが大事なのです。

この点を守って、業務命令としての人事異動の運用をスムーズに実施することが必要なのです。
 就業規則で労働条件を下げるには
  • 会社の経営状況や経済事情の変化で、労働時間や賃金体系を変更する場合があります。

    この場合、就業規則を変更して新たな制度を導入するのですが、ここで問題となるのが変更の内容が社員にとって不利となる場合です。
    いわゆる「労働条件の不利益変更」ということです。就業規則の変更は会社が実施しますが、社員に不利な条件を作成した場合、作っただけでは効力が発生しないのです。
  • ちなみに、労働契約法では以下となっています。

    • 労働者および使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
    • 使用者は労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
  • だから、不利益変更の場合は社員の同意を得なければ変更後の就業規則の効力が発生しないのです。
    しかし、現実的に社員全員から同意書を取ることは難しいですし、同意を得なければ労働条件を変更できないのであれば、会社の存続問題にかかわってきます。
    そこで、一定の場合には社員の同意がなくても就業規則での労働条件の不利益変更が認められているのです。

    これに関する裁判のポイントは「就業規則の変更に合理性があるかないか」という点です。最高裁は判決を出した際に合理性の基準として、次の7つの要因を挙げています。

    • 就業規則の変更によって、社員が受ける不利益がどのぐらいか。
    • 変更の内容、程度は妥当か。
    • 変更後の就業規則の内容が時代等に合っているか。
    • 代償措置などがあるか。
    • 労働組合等との交渉の経緯はどうなっているか。
    • 労働組合に属さない社員への対応はどうなっているか。
    • 同業他社の一般的な状況はどうか。

    だから就業規則を変更し、それが労働条件の不利益変更となる場合、「就業規則の変更の必要性の説明」「代償措置の設置、説明」を「丁寧に」「詳細に」伝えることが重要なのです。
  • 労働条件の不利益変更は社員の生活に大きく影響し、特に給料、退職金、賞与などは社員の生活基盤と密接に結びつく部分です。
    だから、変更の説明会や代償措置がとても重要になります。しかし、このことを実施しても紛争となる場合もあります。こういう最悪の場合も想定しておくべきなので、下記の手続を実行することが大切です。

    • 就業規則を変更するための必要な手続がされていること(社員代表等の意見書を添付して労働基準監督署へ提出)。
    • 変更後の就業規則が周知されていること(回覧や配布する、周知方法について担当者の意見書をもらう。
    • 就業規則の変更がどのようになっているか。
    以上が重要となっているのです。
 試用期間中の解雇について

試用期間は本採用になるまでの「お試しの期間」なので、この期間での解雇について問題はあるでしょうか?の問い合わせも多くあります。
つまり、「雇ってみたら使えなかったので解雇できるか?」ということです。?
  • まずは「試用期間中の解雇」の前に、「一般的な解雇」をみていきましょう。

    通常の社員を解雇する場合、次の2つのことがポイントとなります。

    1. 解雇原因となる客観的な事実があるか?
      • 就業規則等に具体的な解雇原因が記載されていて、それと合致するか?
    2. 社会的にみて相当か?
      • 誰がみても、解雇することがやむを得ない状況か?
    この2つを満たせば「法的には」解雇をすることができます。
    しかし、実際にはそこに至るまでの下記過程も重視されます。

    「改善の機会を与え、解雇回避の努力を実施したか」
    「本人がどのように考えているか、弁明の機会を与えたか」が必要となってくるのです。

    これは「会社が強引に社員を解雇に追い込んでいないか」を検証するために裁判等で争点となる部分です。
    ですから、実際の運用面では就業規則に上記の手続きも記載し、具体的な問題が起きた場合はこれに沿った手続きを踏むべきです。
  • 以上のように、「一般的な解雇」では様々なハードルがありますが、「試用期間中の解雇」の場合は「一般的な解雇」より広い範囲で認めらます。
    具体的にはどの部分が緩和されているのでしょうか?

    • 試用期間での解雇については指導、教育の実施が重要視され、「本人の弁明の機会が必要」な一般社員の解雇とは違う部分です。
      これに関して、労働法に強い弁護士に聞くと、「一般の解雇と試用期間中の解雇では、試用期間中の方が緩い」とお話しされていました。
      では、試用期間中の解雇について実務上の留意点をみてみましょう。

      1. 指導、教育について口頭のみではなく、指導日誌等で記録をとる
        →裁判等の証拠となる
        →将来、類似事例の対応策となる解雇の見極めは試用期間満了時に実施
        →途中で行うと見極めが不十分と指摘される可能性あり
        →途中でもやむなしと判断できれば、実施
      2. 解雇の手続きとして30日分の解雇予告手当を支払い、試用期間満了時に解雇する
        →懲戒解雇事由に相当する重大な事実があった場合は、労働基準監督署に除外中請を行い、予告手当は支払わない(重要)
      3. 解雇すべきか否かの見極めが出来ない場合、試用期間の延長もありうるが争いになる可能性が大きい
        →できれば延長は避けて期間中に判断する

  • なお、試用期間中の解雇であっても、
    「入社後の健康状態が悪く、通常の出勤ができない」、
    「遅刻等を繰り返すなど、勤務態度が悪すぎる」
    という場合、入社後2週間以内であれば、即日解雇できます。

    この場合は労働した分に対応する給与だけを支払えばOKで、解雇予告手当は必要ありません。
 1年契約の契約社員は解雇できない?

 1年などの雇用期間が決められた社員を、一般的に「契約社員」と呼びます。業種によっては、契約社員や雇用期間が決められているパート社員が多くいる会社もあるでしょう。自動車メーカーにおける季節労働者などは、この典型でしょう。
この場合、このような契約期間が決まっている社員等を解雇することは原則として、できないことをご存知でしょうか?
なぜならば、これは労働契約法に明記されているからです。
労働契約法 第17条(契約期間中の解雇等)
  • 使用者は、期間の定めのある労働契約について、【やむを得ない事由】がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
 つまり、契約期間が決まっている社員等でも解雇できないのです。
一般的に契約期間が決まっている社員に「お引き取り願う場合」は、残りの期間の賃金の合計額を支払うこととなるのです。もちろん期待レベルに達しない契約社員が入社することもあり、業務の進行上、解雇したいと思うケースもあるでしょう。このような場合でも本当に解雇できないのでしょうか?これに間する裁判があります。
<リーディング証券事件 東京地裁 平成25年1月31日>
  • 雇用期間1年間で韓国人の女性証券アナリストを採用 → 試用期間は6ヵ月
  • 入社後、日本語での文章作成能力が十分でないことが明らかとなった
  • 女性証券アナリストは、上司の指示に従わない、越権行為を繰り返すなどの行為を行った
  • 女性証券アナリストを雇用してから約2カ月半した時点で解雇
  • 女性証券アナリストは「この解雇は労働契約法弟17条に違反」とし、残存契約期間の未払賃金等と損害賠償金の支払いを求めた
そして、裁判所は以下の判断を下しました。
  • 本件の解雇理由には労働契約法弟17条の「やむを得ない事由」に該当する
    • → 採用時の日本語のレポートは日本人である夫に文章を見てもらったことが発覚
    • → 採用時のレポートが本人の力だけではなかった、という特別な事由があるので、信頼関係を根本から喪失させるものである
  • 本人を引き続き雇用しておくことが適当ではない
  • 雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用契約を終了せざるを得ない
以上により、会社側が勝訴したのです。 
 契約期間が決まっている契約社員等を契約期間途中で解雇することは、原則はできません。
しかし事例の裁判のように「やむを得ない事由」があれば、解雇も可能なのです。もっとも、この裁判のように「語学スキル」等の能力不足が明確な場合はその解雇理由が客観的で、かつ明確なものとなっています。
これに対して協調性がない、仕事ができないなどといった主観的な理由の場合は「やむを得ない事由」として裁判等は判断しないのではないかと考えます。この点を注意して下さい。
 経歴詐称で解雇できるか?

「経歴詐称」というとピンとこないかも知れません。
しかし「ソフト開発の技術者として採用したが、実際のスキルがなく、使い物にならない…」こんな話は本当によく開きます。

このような場合、経歴(スキルなども含めて)をどの程度偽っていたら解雇が可能でしょうか?

まず、解雇の論点を考える前に、入口である採用についてみてみましょう。会社は自由に「誰を雇うのか」を決めることができ、書類選考、面接などを実施して採用を決めます。
その時に応募者は会社に対して「本当のこと」を告げる義務があるのです。
ところが、採用されたいばかりに、「経歴詐称をする人」「スキルなどに関してオーバートークしてしまう人」もいます。

しかし、これらの行為が発覚したからといって、すぐに解雇はできません。合法的な解雇とするためには、必要な条件があるのです。逆に言えば、この条件を満たさなかったために解雇が無効になった裁判もあります。
裁判の基準は「経歴詐称をしたからといって、今の仕事に影響が出るわけではない」ということです。
これは、経歴詐称しようがしまいが、担当している仕事に影響がなければ、解雇は無効ということです。ということは、担当している業務に支障があれば、解雇が認められるということです。 
  • 実際の裁判例をみてみましょう。
  • <グラバス事件東京地裁平成16年12月>
  • システム開発のために社員を採用
  • 社員は「担当する業務に開する」プログラミング能力がなかった
  • 採用時の経歴書にはこの能力があるかのように記載
  • 採用面接時にも「できます」と説明
  • 会社は懲戒解雇を実施
  • 社員がこの決定を不服として裁判となった
  • そして、裁判所は
  • 社員は「担当業務に開する」プログラミング能力はない
  • 会社はプログラミングができる人を採用したかった
  • 業務にも支障がでた
  • 就業規則の懲戒解雇事由に該当(重要な経歴の偽りにより採用された)
  • とし、懲戒解雇を有効としたのです。
このように、「経歴詐称、オーバートークの程度」「業務に支障が出ているかどうか(重要)」によって裁判所の判断が異なります。繰り返しになりますが、業務に支障が出ていなければ、解雇は難しいのです。

本来は内容が何であれ、経歴を詐称するような人を採用すべきではありません。しかし、その全てを面接等で見抜けないのも事実です。
だから、事前対策として、就業規則の懲戒解雇事由に「経歴詐称」の内容を入れるべきです。
そしてその事実が明白になった場合には対応しましょう。
 採用後に前職の非行が発覚したら解雇できるか?

仕事のできるマネージャーを採用したつもりだったのですが、前職でセクハラ、パワハラ問題を起こしていたことが分かりました。
入社して1年が経ちますが、解雇できるのでしょうか?

 前職の問題がどうであれ、一度採用してしまったら、なかなか解雇できないのも事実ですが、これに問する裁判がある。

<学校法人尚美学園事件 東京地裁 平成24年1月27日>
  • 教員を採用
  • その後前職でのセクハラ、パワハラが発覚
  • 3年前の採用時にはその問題は聞かれず、採用内定となっていた
  • 学校は「採用時にセクハラ、パワハラでの問題を告知しなかった」ため解雇した
  • 教員は「この解雇は無効だ」と主張し裁判所に訴えた
そして、裁判所は以下の判断を下したのです。
  • 応募者が採用面接時に、自分に不利益な質問を受けても虚偽の回答をしていなければOK
    (質問に対しての虚偽はNGということ)
  • 応募者が自分に不利なことを積極的に話す必要はない
    (自発的に告知をする法的義務はない)
  • 採用の時に応募者がどんな人物なのかを審査するのは採用側の責任
  • 今回の採用面接は虚偽回答のレベルではないので、解雇は無効
 この裁判のポイントは、
採用面接での質問で、会社が質問をしないでスルーした場合、本人が積極的に話す必要はない。採用面接とは応募者の人物像やスキルを会社が判断するもので、慎重をを期し、注意を払って行うこと
ということがクリアになったのです。

 仮に、前職でトラブルを抱えていたか否かについて、会社としても「想定しうる質問」を用意しておく必要があるのです。
いきなり「セクハラ、パワハラで問題を起こしましたか?」とは質問できませんが、以下の質問から話題を狭めていくことが大切です。
  • 前職の退職理由
  • 退職の経緯
  • なぜ転職したいのか
  • 前職の会社や社員との意見の相違等があったときの状況
    →その時の本人の対応
  • 懲戒処分の有無
  • 懲戒処分を受ける可能性のある行為の有無
などの質問を現場や職位に合わせた形で質問することが大切なのです。

 最終的には、セクハラ、パワハラに関して言えば、「前職でセクハラ、パワハラの問題を起こしませんでしたか?」と質問してもOKなのです。また、履歴書などで「賞罰の有無」を記載する欄があるが、この「罰」は通常は確定した有罪判決を指し、起訴猶予事件や公判中のものは該当しません。
 よって、有罪が確定しなければ履歴書の賞罰の欄は「質罰なし]の記載となるのです。
 もし、この事実を虚偽、または隠匿したら解雇は有効となる場合もあるでしょう。
 無断欠勤は即日解雇できるか?

当社の就業規則の懲戒解雇事由に「無断欠勤があった場合」とありますが、実際に無断欠勤があった場合、それが1日であっても就業規則に基づいて解雇することは認められるのでしようか?
  • 【無断欠勤と懲戒解雇】

    • 正当な理由もなく届け出ずに欠勤することは企業活動においては労働者の非違行為といえるものですので、就業規則などに定めがあれば、無断欠勤は懲戒の対象になります。
      しかし、懲戒の程度が解雇となると、その行為が解雇に相当するかどうかが問題にされることかあります。
    • 労働契約法第16条においては、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められています。
      したがって、就業規則の規定に基づいて解雇したとしても、まったく問題がないわけではありません。
  • 【無断欠勤の程度と対応】

    • そうなると、実際に無断欠勤で解雇できるのか、できるとすれば何日以上なのか、という疑問が残ります。

      それについて、労働基準法(第20条)では、「労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合」に労働基準監督署長の認定を受けることで、解雇予告を除外できると定められており、以下の解雇予告の除外認定の事由に該当することが単純に解雇の合理性に繋がるとはいえませんが、認定の事由を参考にすれば、無断欠勤による懲戒解雇は「2週間以上」が一応の目安となっていて、この間に出勤の督促を行うことも条件といえるでしょう。

      1. 原則として極めて軽微なものを除き、事業場内における盗取、横領、傷害等の刑法犯に該当する行為のあった場合
      2. 賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱し、他の労働者に悪影響を及ぼす場合
      3. 雇入れの際の採用条件の要素となるような経歴を詐称した場合
      4. 他の事業場へ転職した場合原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合
      5. 遅刻や欠勤が多く、数回にわたって注意を受けても改めない場合

      なお、認定にあたってば、労働者の地位、職責、勤務年数、勤務状況などを考慮した上で、総合的に判断すべきとされています。
  • 【就業規則の運用】

    • 今回の質問のケースでは、就業規則には懲戒解雇事由となる無断欠勤の日数が明記されていませんが、実際に無断欠勤があった場合、無用なトラブルを避けるためにも、欠勤期間の長さだけではなく、どのような事情で届出がなかったのか、届け出ることができない正当な理由が存在するのか、会社に実害があったのかどうか、などの事情も考慮した上で、慎重に規定を運用することが必要となるでしょう。
 残業命令を拒否されたら、解雇できるか?

みなさんの会社では残業させる時はどのように運用していますか?
「上司が残業を許可していますか?」
「それとも、社員が勝手に残っていますか?」
本来、残業とは「所定労働時間をオーバーして働く時間」なので、上司からの指示で行うものなのです。逆にいうと、上司の指示がないと、残業してはいけないのです。

そこで、アフター5に予定がある日に上司が残業命令をしたという状況を考えてみましょう。この場合の答えは「残業命令が優先します。
  •  これに関する裁判があります。
  •  <日立製作所武蔵工場 最高裁 平成3年11月28日>
  • 上司が部下に製造効率が低下した原因解明のため、残業するように命じた

    • →部下の手抜作業の結果、効率が低下した
    • →時間外労働、休日出勤に関する協定は会社と社員代表との間で締結済
    • →この協定を一般的に36協定といいます
  • 社員はこの命令に従わなかった
  • 会社は社員に始末書の提出を求めたが、提出しなかった
  • 会社は労働組合の意向も聴取した上で、就業規則上の懲戒事由に該当するとして社員を懲戒解雇した

    • →就業規則には「業務命令違反は懲戒解雇」と記載あり
  • 社員はこれを不服として、裁判を起こした。そして、裁判は最高裁までいき、結果は以下となりました。

    • 同社の就業規則は合理的なものであり、本件は懲戒に該当する
    • 36協定は有効であり、社員は残業の義務を負う
    • 残業命令は社員本人の手植作業の結果を追完、補正するためのもの
    • 諸事実を考え併せると、懲戒解雇は権利の濫用には当たらないとして会社が勝訴した
ここでポイントとなるのは36協定が締結されているか否かです。
今回の場合、残業の具体的な内容が36協定によって定められており、これに従った残業命令ということが確認されています。36協定が有効に機能していないと、残業命令を発せられないということがわかります。
もっとも、労働基準法での所定労働時間は
  • 1週間で40時間
  • 1日で8時間
と決められています。
この時間を超えて残業させる場合は36協定を締結して、残業時間の設定が必要になるのです。これは「1時間だけでも残業してもらう場合」はこの協定書の締結が絶対に必要なのです。

このように残業命令を出す場合は、「有効な36協定」が締結されていることが必要です。
だから、有効な36協定があれば、仮にアフター5に予定が入っていても残業してもらうことが可能なのです。
ただし、アフター5の予定の内容にも配慮すべきですし、健康上の問題も考える必要があります。
 酒気帯び運転で懲戒解雇は有効か?

社員が酒気帯び運転で捕まったため、その社員を懲戒解雇したいのですが問題ないか?

 酒気帯び運転は社会的にも厳しい眼が注がれている。
しかし、酒気帯び運転で即懲戒解雇とできるのでしょうか?
第一に考えなければならないのは、酒気帯び運転が仕事に関連しているのかどうかということです。社事がらみとなると社員の責任がとても重くなり、懲戒解雇も視野に入れなくてはならない。しかし、勤務と関係ないプライベートの時間であれば、会社への影響も軽微なので懲戒解雇は厳しいでしょう。
 また、会社として
  • 就業規則が整備されているか?
  • 就業規則に懲戒処分の詳細が明記されているか?
  • 懲戒処分に酒気帯び運転に対する罰則が記載されているか?
が最重要ポイントとなっている。
 もし、就業規則がなかったり、あったとしても酒気帯びに関する懲罰が記載されていなければ、処分をすることができないのです。
さらに、酒気帯びの程度によっても懲罰の程度が変わってきます。
これに関する裁判が以下となっている。

<JR東海事件 東京地裁 平成25年1月23日>
  • 新幹線の運転手が基準を「下回る」酒気帯びの状態であった。
  • 会社は酒気帯び状態と判断し、乗務不可とした。
  • この件により、懲戒処分として給料の減額を実施した。
  • この懲戒処分に納得しない運転手は減給処分の無効を訴え、裁判を起こした(慰謝料150万円も合わせて請求)。
そして、裁判所の判断は以下の通りとなり、会社の主張が一部は認められました。
  • 酒気帯びの数値は下回っていたが、管理者3名が酒臭を知覚しており、乗務不可の判断は合理的なものである(安全を最優先する職場 としては当然である)。
  • 給料の減額処分は、会社の他の取扱いと比較して今回の処分は重すぎる(JR他社と比べても重すぎる。社会通念上、相当性を欠く。
  • 減額処分は無効、慰謝料を払うほどではな い。
 この裁判でのポイントは「社会相当性」の考え方がすべてとなっている。「懲戒処分の理由となった行為」と「それに対する処分]が社会的に見て釣り合うのか?ということです。実際に裁判でも過去の類似事例や他のJR各社の例と比較している。

 最近の傾向としては酒気帯び運転、酒酔い運転は「即解雇」と考えられがちです。しかし、これはその時の状況にもよるので早急な判断は危険です。まず、就業規則の整備が基本できちんとした記載が必要です。そして、酒気帯びの状況を把握し、業務上か否か、会社への影響を考えて処分をしましょう。
 遅刻、早退が多い社員を解雇する方法とは?
  • 遅刻、早退等の勤怠に問題がある社員は、社会人としての常識を欠き、この問題社員を放置しておくと、他の社員へ悪影響が出てくることもあり、職場のモラルが下がってしまいます。
    また、こういう社員はどんなに注意しても改善されないケースも多く、「社会人としての常識」がもともとなく、会社としても仕事を任せられない、そもそも使えない、というケースも多いでしょう。
    だから、「辞めてもらいたい」というのが本音のケースもあります。このような場合、遅刻や早退をすることは労働契約上の義務違反に当たり、解雇の事由となるのです。
  • しかし、解雇となると多くの社長が「尻込み」をしてしまうのも事実なのです。それは、解雇が「どうすれば有効になるのか?無効になるのか?」の判断が難しいからです。
    解雇が有効となる要因として、2つの要因があります。
    それは、
    • 解雇に対し、客観的、合理的な理由があるか?
    • 解雇が、社会通念上相当である

    ということが必要です。
  • 勤怠不良だからといって特別なことはなく、この2つの要因に当てはまれば、解雇は有効となるのです。

    では、勤怠不良による解雇が有効とされた裁判をみてみましょう。

    <東新トレーラーエキスプレス事件、東京地裁、平成4年8月25日>
    ○社員が入社して1年以上たったが、欠勤が約70日であった
    ○会社は、再三注意を行い、警告書で就業状況の改善を求めた

    →社員は、その後も同様に欠勤を重ねた

    ○会社は就業規則の解雇事由に該当すると判断し、解雇を実施

    →「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適さないと認められる場合」に該当と判断

    ○社員はこれを不服として裁判を起こした

    そして、裁判所の判断は以下としたのです。

    ○解雇は有効(就業規則の解雇事由に該当)
    ○解雇を無効とする特段の事情が認めらない
    ○会社が勝訴
    この裁判で会社が勝訴したポイントは以下となっています。
    ○就業規則に解雇の事由が記載されていた(客観的、合理的な理由)、欠勤の多さが就業に通していないと裁判所も認めた
    ○欠勤の理由が不明(社会通念上、相当な理由)、個人的な理由としか報告せず
    ○会社として再三注意を実施している(社会通念上、相当な理由)

    →その後に警告書で改善を求めている
  • 解雇するにあたり就業規則に記載された解雇事由があり、会社は解雇するまで社員を改善させようと再三の注意、警告書による通知も行っているのです。
    また、社員が欠勤の事由を明らかにしない以上、会社としても個人的な事情を考慮することはできないのです。
 社員の忠実義務

 会社と労働契約を締結した社員は、労働力を提供する義務だけでなく、その他の義務も負うことになり、これを「付随義務」といいます。
この付随義務の1つに「忠実義務」というものがあり、これは「会社の正当な利益を不当に侵害しないよう配慮する義務」というものです。この忠実義務には、
  • 「会社の信用、名誉を毀損しない義務」
  • 「二重就業の禁止義務」「秘密保持義務」
  • 「競業避止義務(会社の事業と競争的な性質の取引を禁止する義務)」などがあります。
 だから、社員は就業時間以外でも「会社の正当な利益を不当に侵害しないよう配慮する義務」があるのです。
結果、プライベートの時間でも「会社の利益を侵害してはいけない」ということであり、これに反した社員に対しては、解雇等の懲戒処分、損害賠償の請求、ということもあるのです。

 これに間する裁判があります。
<日本教育事業団事件 名古屋地裁 昭和63年3月4日>
  • 営業の最高責任者が担当地区の組織を乗っ取り、自分の会社を設立しようと企画
  • 部下の従業員を大量に引き抜く行為を実施し、独立しようとした
  • この情報をつかんだ会社は営業の最高責任者を懲戒解雇とした
  • 営業の最高責任者は、「業務を行うことと自身の独立は関係ない」と主張し、また、懲戒解雇を不服として裁判を起こした
 そして、裁判所は以下の判断を下しました。
  • 営業の最高責任者は会社に対して、高度の忠実義務を負うものである
  • 在職中に会社と完全に競合するライバル会社の商品を同じ方法で販売することを企てたことは、経営方針に反対の意向を示すこと
  • 自分の地位を利用して部下の大量引き抜きを図ったことは、会社に重大な損害を与えることは明白
  • 営業の最高責任者の行動は会社に対する重大な忠実義務違反である
  • 就業規則の条文にある「故意に会社の服務規定その他諸規則、通達に違反したとき」、「上司の命令に従わず職場秩序を乱したとき」の各号に該当するもの
  • 懲戒解雇は有効
 この裁判のように忠実義務違反が問われるケースは実は多いのです。そして、この忠実義務は管理職ほど重くなり、要職に就く者に対しては、特に厳しい結果が出ています。

 だから、このような行為が現実的に発生したら、会社は早急に対応する必要があります。
 その時に気を付けなければならないことがあります。
「行われた行為」が「就業規則等の罰則規定」に該当することが明確、かつ、具体的に規定されているかどうかということです。この記載がない就業規則等であれば罰則等の対象とならず、会社は「指をくわえて見ている」しかできなくなってしまうのです。
忠実義務に関しては就業規則の「服務規律」に記載されることが多いです。その際に服務規律違反について、懲罰の対象となることを記載しないと懲罰を科すことができないのです。
 携帯電話が休日に鳴ったら…?

携帯電話が休日に鳴ったら…?
  • 休日に携帯電話(会社名義)の電源を入れさせている場合、電源ONの時間も労働時間となってしまうのでしょうか?
  • また、休日にお客様から携帯に電話があり、実際に対応した時問は労働時間に含まれるのでしょうか?
  • 上記は業種を問わず、あり得ることですが、法的にはどう考えればいいのでしょうか?

    • まず、「携帯電話の電源ONは労働時間か?」について解説します。もちろん、「携帯電話(会社名義)の電源は休日でもONにしておく」ということは業務命令である前提です。
      仮に、携帯電話の電源ONの時間が労働時間ならば、法律で定められている労働時間(1週間40時間、1日8時間)を大幅に超えてしまいます。

      そして、割増賃金がドンドン膨らんでいくことになってしまいます。しかし、労働時間とは「会社の指揮監督下にある時間」であり、実際の作業をしている時間だけが該当する訳ではありません。例えば、工場でラインが動き出すのを待っている時間も労働時間です。

      システムトラブルで何もできない時間も労働時間です。
      しかし、携帯電話の電源ONという状態は会社の業務命令とはいえ、指揮監督下にあるといえるのでしょうか?

      これに関して、労働法に強い弁護士さんに確認したところ、次の労働基準法規則23条が「参考になる]とのことでした。
      この23条には、「断続的な業務は通常の業務とは別の業務、この別の業務は一定の労働時間を超えても、残業代が発生しない」ということが書かれています。

      だから、携帯電話の電源を入れているが、鳴ったら対応するという断続的な業務は「通常の業務」ではないのです。
    • この場合、「社員に対する場所的な拘束」が大きなポイントになり、単に携帯電話の電源ONという状態は場所の拘束がないので、「通常の業務」ではないのです。だから、電源を入れているだけでは「通常の業務」とはならないのです。
      ただし、「通常の業務」ではないとはいえ、実際に携帯電話で対応する場合もあるので、手当の支払いは必要になります。
      また、法律では緊急電話の対応等につき、相当の手当が支払われている場合(平均賃金の1/3程度)は次のようになります。

      • 例えば、1時間あたりの平均賃金が900円の人が10時間、携帯電話をONにしていたら、「300円×10時間=3,000円」程度の手当が必要」です。
        そして、「回数は月1回程度」が目安でしょう。この回数の定義は明記されていないのですが、電源ONの携帯電話を持っているのが、月1回程度(例:持ち回り担当制)などであれば、問題無いとされています。
  • 結果として、相当の手当があり、月1回程度の携帯電話の電源ONは通常の業務にはなりません。
    しかし、現実問題として、こういう状況にある会社は微妙な要素を合んでいることが多いでしょう。

    だから、このような運用を実施する場合、「きちんと就業規則等に記載すること」「手当を支給すること]「具体的な運用を明確にし、場合によっては運用の改定」が必要になるのです。
 無断で残業する社員への対応は?

無断で残業して、残業代を稼ごうとする社員の対応はどうしたらよいでしょうか?

具体的には、
  • 必要もないのに勝手に居残りをして残業時間を申告している。
  • 『早く帰れ』と指示しているが、だらだらと残っている。
  • 『難しい仕事をやっている』と社員は言うが、実際は簡単な業務である。
など、いろいろなケースがあるが根本の問題は同じです。
共通する悩みとして「無断で残業して、残業代を稼ごうとする社員の対応はどうしたらよいでしょうか?」という問題になる。

 この状況を放置した場合、以下の大きな問題を抱えていることとなる。
  • 人件費が高騰する。
  • 残業時間が長くなると、社員の健康管理の問題が発生する(この場合、会社にペナルティが科される可能性がある(労災リスク))。
 では、最初に「残業をすることは社員の権利として認められるか?」ということをみてみましょう。
労働基準法上の労働時間とは、「社員が会社の指揮命令下に置かれる時間」をいいる。このため、会社の指揮命令下になく、社員が私的な活動のために会社に残っている時間は労働時間には含まれません。
基本的には「会社の指揮命令下」にない時間は、残業時間として取り扱う必要がないのです。
 つまり、社員の判断で「残業する権利」はないということです。このことをはっきりさせるために就業規則にはっきり記載することが重要です。
就業規則に次の条文を盛り込みましょう。
(遵守義務)
社員は、勤務に当たり、次の事項を遵守しなければならない。
  1. 会社の許可なく終業時間後、会社施設に滞留しないこと。
  2. 会社の構内又は施設内において、会社の許可なく業務と関係ない活動を行わないこと。
  3. 勤務に関する手続きその他の届出を怠り、又は偽らないこと。
  4. 会社の残業命令なく残業しないこと。
  5. 職場において、電話、電子メール、パソコン等を私的に使用しないこと。
(残業命令なしの残業)
前項4号の規定にかかわらず、社員が残業命令なしに残業した場合、この残業は労働時間に含まれないため、会社は社員に対し、この残業に対する賃金を支給しない。
 就業規則に明示することで、残業管理があやふやにならないことがポイントです。
 しかし、就業規則に記載するだけでは足りません。
特に「残業命令なしの残業には賃金を支払わない」とまで記載するのであれば、会社は残業をきっちり管理しないといけないのです。なぜなら、残業命令なしでも残業代の支払いが命じられた裁判が多くあるのも事実だからです。これは、直接的には残業命令がなくても、「黙示の残業命令」が存在するということで、支払命令が出ているのです。

 会社が「残業の内容と量」を把握して、きちんと労働時間を管理していれば、勝手な残業は認められないし、黙示の残業ともならないのです。
 副業(アルバイト)は、どこまで制限できるのか?

就業規則で副業(アルバイト)禁止の規定を置いている会社は少なくありません。しかし、本来は仕事以外のプライベートの時間をどのように使うかは社員の自由で、会社が干渉するところではありません。
また、裁判等の事例をみると、「就業規則に副業を禁止しているから」といって、それが法的に即有効とはならないものもあります。

では、どんな時に「副業禁止が有効」とされるのかをみてみると、以下の3つの「副業禁止理由」がポイントとなります。
  1. 機密保持

    企業機密が漏洩するリスクがある場合です。
    例えば、IT企業の社員がネットショップを立ち上げた友人の会社でアルバイトとして手伝っていたことが発覚したら、懲戒処分を 受ける可能性があります。なぜなら、その企業のノウハウが、友人のネットショップに流出してしまうリスクがあるからです。
  2. .労務提供の質の維持

    労務提供の質の低下が懸念される場合ですが、長時間の副業をした結果、疲労によって集中力を欠いたり作業効率が落ちたりしたら、会社としては完全な労務の提供を受けているとは言えません。
  3. 名誉、信用の毀損防止

    会社の名誉や信用を傷つけるリスクがある副業は禁止とできます。なぜなら、社員の副業が社会的に明るみに出た場合、会社が世間的な名誉や信用を失うリスクがあるからです。
そして、副業禁止で争われた裁判で多いのは2の「労務提供の質の維持」がほとんどで、1はまずありません。

参考となる裁判があります。
  • <辰巳タクシー事件 仙台地裁 平成元年2月16日>
  • ○タクシー運転手が非番の日を利用して風呂釜、湯池器等のガス器具の修理販売等の営業を行っていた
  • ○会社がその事実を知り、懲戒解雇を実施
  • ○運転手は「懲戒解雇は違法」として裁判を起こした
  • そして、裁判所の判断は以下となりました。
  • ○乗客の生命、身体を預かるタクシー会社にとって事故を防止することは企業存続上の至上命題であり、社会的に要請されている使命である
  • ○運転手は非番の日に十分休養を取り体調を万全なものとするように調整し、かつ、心労や悩みの原因となる事由をできるだけ排除して安全運転ができるようにするものである
  • ○運転手は会社に対して労務提供を万全とすることは当然であり、このような趣旨から副業を懲戒解雇事由として禁止しているこ とは十分な合理性がある
  • ○懲戒解雇は有効(会社が勝訴)

    本業への影響を考えて、会社側の勝訴となりましたが、一番のポイントは運転手ということです。運転業務に携わることにより、事故防止というタクシー会社に課せられた使命の達成が危うくなるので、副業は明らかに安全運転を脅かす存在となっていたの です。
 降格人事はどこまで可能か?

営業課長が発注ミスをしましたが、これで3回目です。ヒラの営業マンに降格を考えていますが、問題ありませんか?

降格には、
  1. 人事権の発動による降格
  2. 制裁としての降格
があるので、個別にみていきましょう。
  • まずは、1についてです。
    降格とは人事権の発動の一部で、会社が自由に命じることができ、社員はこれに従わなければなりません。
    また、出向、転勤などと同じで、降格は「基本的には」拒否することはできません。

    なぜなら、多くの会社は入社時に誓約書を提出してもらっており、その誓約書に労働契約、就業規則、その他の会社の規則を守ることが記載されていて、それに同意しているからです。

    つまり、「会社の命令に従います」と宣言しているのです。
    ただし、今回のご相談は「課長から一般社員」という降格で、極端な降格と考えられます。

    異動、昇格、降格などの人事権は「基本的には」会社の判断だけでOKで法律の制限はかかりません。しかし、極端な降格や異動は違法行為となってしまう可能性があるのです。
    降格そのものが違法ではありませんが、下記のことをチェックする必要があります。

    • 「合理的理由があるか」
    • 「就業規則に降格の理由が記載されているか?」
    • 「降格の前例はどうなっているか?」
    営業会社のように、中には昇格、降格が日常茶飯事で、激しく上がったり、下がったりする会社の場合は部長から係長などへの2階級以上の降格が認められる可能性もあるでしょう。
    ただし、一般的な昇格、降格は1階級ずつなので、2階級以上の上げ下げをする場合は合理的理由と前例をしっかりと抑えて実施する必要があります。

  • 次に、2についてです。
    会社に対して大きな損害を与えた場合など、制裁の意味での降格もあります。この場合は単に辞令等で降格を告げるのではなく、ルールに則った手続きをとりましょう。
    具体的には下記の流れで実施してください。

    1. 懲罰委員会等を関催し、複数の役員で決定する
    2. 降格となった本人の意見を聞く
    3. 議事録を保存しておく
    はじめのご相談もこれに当たります。
  • さらに、1、2に共通する話ですが、降格に関してよくある質問が給料についてです。「降格して、部長から課長になったので給料を下げることができるか?」ということです。
    • 【降格人事という理由】により給料を下げることは可能です。
      例えば「部長手当10万円→課長手当5万円」

    この場合は職務上の責任の範囲が変わったので、手当の額が下がったので「労働条件の不利益変更」には該当しないのです。この点を注意しましょう。
 部下の不祥事に対する上司の処分は?

部下が不祥事を起こした場合、直属の上司にもなんらかの懲戒処分を科すことを検討しています。これは管理者責任を自覚させるのが目的ですが、部下の処分よりも軽くすべきか重くすべきかなどの考え方について教えてください。
また、部下が重要な企業秘密を漏えいして懲戒解雇になる場合、その上司も併せて解雇しても問題ないでしょうか?

最初に結論をお話ししますが、部下が不祥事を起こした場合、上司に懲戒処分を科すことは可能です。
ただし、これは「就業規則に定めがあること」が前提です。逆に言うと、明確に記載がなければ、上司の処分はできないのです。
就業規則の参考条文は以下となります。
  • (制裁の事由)

    • 第○条 従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、情状に応じ、訓戒、譴責、減給、出勤停止又は降格降職とする。
    •         <中略>
      • ○部下に対して、必要な指示、注意、指導を怠ったとき
      • ○部下の、懲戒に該当する行為に対し、監督責任があるとき
そして、上司の責任として懲戒処分を行う場合は、
  • 管理者として監督指導義務の不履行があったか?
  • 規律違反(不履行)の程度はどのレベルか?
  • 会社に前例があるかどうか?
ということが重要です。

また、通常の場合は、「上司の処分 < 部下の処分」となるでしょう。
しかし、部下の行為が重大な違反で、会社に大きな損害をもたらす場合、行為の阻止、発見の遅れについて、上司に重大な過失があるならば、懲戒解雇の対象になり得るのです。

重要な企業秘密の漏えいをした部下の上司にも解雇を検討する場合、処分のポイントは以下となります。
  • 企業秘密の漏えいが発見できなかったことに重大な過失があるか?
  • 漏えいを見過ごしていないか?
だから、この発見の遅れの原因が管理の怠慢、放置、故意などの場合は重過失として、解雇を検討する必要があるかもしれません。
しかし、通常の管理を行っていた場合、解雇は無理なので、解雇よりも軽い懲戒処分を検討することになります。

当然ですが、巧妙な手口で行われ、簡単に発見できないような不正ならば、上司に重い処分は料せません。
こういう時は
  • 譴責(けんせき):始末書を提出させ、反省を促す
  • 減給:始末書を提出させ給料の10%カット、
などという懲戒処分が相当と考えられます。

もちろん、このような不正行為は発生しないことが一番です。さらに、管理者である上司にも管理する意味を「繰り返し」伝えていくことが重要です。
 管理職として能力がない社員への対応は?

自分の営業成績が良くても、部下の管理がさっぱりで、管理職としての能力に欠ける社員への対応はどのようすべきでしょうか?

 「管理職」の定義ですが、「現場において部下などを指揮し、組織の運営を担当する者」とされている。
管理職の範囲は会社の規模や種類によって異なるが、部下を指揮することは変わりないし、組織運営を担当する権限を適正に運用する義務がある。
したがって、管理職にある社員に部下を指導する能力がなければ、組織を運営することができない。こうなると会社としても機能不全が起こり、管理職の社員の降格を考えざるをえない。
そして、会社として「人事権」を行使して「管理職ではない」社員に降格を命ずることとなる。この際に「就業規則に降格に関する記載がない」場合でも人事権の行使で降格を命ずることができるのです。

 これに関する裁判がある。<エクイタブル生命保険事件、東京地裁、平成2年4月27日>
  • 営業所の業績不振で、営業所長を営業所長代理に降格した。
  • 就業規則に降格の記載なし。
  • この結果を不服とし、裁判をおこした。
 裁判所は次の判断をした。
  • 降格にあたり営業所長の能力評価を行った。
  • 社長の営業所長との面談の結果、支社長からの業務遂行状況についての報告を加味して総合勘案した。
  • 能力評価、面談結果、業務遂行状況から判断し、営業所長としての適性がないと結論づけた。
  • 降格は有効(会社が勝訴)
 この裁判で明確になった点がある。それは「人事権の行使は就業規則等に記載がなくても会社が自由に行える」ということです。

 さらに管理職の場合はその職位に応じた給料や手当等が支給されているが、降格後の職位に対応した賃金に減額しても、降格が合理的であれば問題ない。
例えば、部長職から課長職に降格となった場合で「部長手当(10万円)→課長手当(5万円)」という減額であれば合理的といえる。ただし、裁判等では減額の合理性が必ず調べられるので、「降格したのでなんとなく減額をする]では認められない。
スリムビユーティーハウス事件(東京地裁平成20年2月29日)でも、社員の降格は有効であると判断されたが、賃金の減額については認められなかった。なぜなら「減額の合理性がない」、「客観性が基礎付けられていない」との判断で無効となった。

 また、管理職に対する人事考課も明確になっていないと、人事権として降格を行使できません。この人事考課を実施する場合、
  • 「部下への指導力」
  • 「担当部署や営業店等の業務成績」
等、管理職の能力や業務内容を客観的に評価することが重要となる。この基準を示さずに、勝手に降格することは大変むずかしいだろう。社内で人事考課という「基準」を持ち、これに沿った運用をすることが必要だ。
ただし、恣意的に運用したり、意図的に運用するようでは認められない場合もあるので、「厳格な運用」を実施しましょう。
 元請から従業員名簿の提出を求められたら

当社は元請会社での構内作業を請け負っていますが、このたび安全管理のため、元請から作業に従事する当社従業員の名簿の提出を求められました。
住所などの個人情報も含んでいますが、本人に断らずに提出しても問題はないでしょうか?
  • 【個人情報保護に関するガイドライン】

    • 雇用管理に関する個人情報については、「個人情報保護法に基づくガイドライン(「雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン」平成24年厚生労働省告示第357号)において、事業者が適切に取り扱うように求められています。
    • 同ガイドラインは、顧客情報や従業員情報など、あわせて5,000人分を超える個人情報を事業活動に利用している事業者が対象となっていますが、5,000人分を超えない個人情報を利用している事業者も、個人情報の取扱いをめぐるトラブルを防止するために、同ガイドラインを参考にして取り組むことが望まれています。
  • 【個人データの第三者への提供】

    • 氏名や住所、電話番号など特定の個人を識別できる情報をデータベースなどから記憶媒体にダウンロードしたり、紙面に印刷したりしたものを「個人データ」といいます。
    • 事業者は、法令に基づく場合や、生命、身体または財産の保護のために必要があるなど一定の場合を除き、原則として、あらかじめ本人の同意を得ないで、こうした個人データを第三者に提供してはならないとされています。
    • しかし、本人の求めに応じてその本人が識別される個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、以下の4項目をあらかじめ本人に通知し、または本人が容易に知り得る状態に置いている場合には、本人の同意を得なくても個人データを第三者に提供できるものとされています。
      (いわゆる「オプトアウト」といいます)

      1. 第三者への提供を利用目的とすること
      2. 第三者に提供される個人データの項目
      3. 第三者への提供の手段又は方法
      4. 本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止すること
    • この場合の「本人が容易に知り得る状態」とは、継続的な方法により、本人が知るうとすれば、時間的にもその手段においても簡単に知ることができる状態をいいます。
    • たとえば、本人が定期的に閲覧すると想定されるウェブ画面において、継続的に掲載する場合や、企業内に広く頒布されている刊行物において、定期的に掲載する場合などがその状態にあるものとされます。
    • 今回のケースも、原則として個々に同意を得れば問題はありませんが、上記の4項目について、直接通知するか、または容易に知り得る状態に置いてあれば、同意は得なくても良いことになります。
  • 【第三者提供に当たっての留意事項】

    • また、個人データの第三者への提供に当たっては、提供先に対して、漏洩や盗用(目的外の利用を合む)をしないこと、バックアップ以外の複写などをしないことを通知するとともに、個人データの保管期間、管理方法、利用目的達成後の個人データの処理(返却または提供先における破棄・削除)の方法を明確にすることが求められています。
 健康診断は必ず受診してください

うちの会社では、年1回の健康診断を行っています。
各人の診断結果も「自動的に」届きます。
しかし、社員の1人が「プライバシーの侵害だ」と怒りました。
そして、受診も拒否しているのです。

この場合、どうしたらいいのでしょうか?

 会社は社員と労働契約を結ぶと
  • @給料を支払う義務、
  • A快適な職場環境を整える義務、
  • B社員の安全と健康を確保する義務、が発生します。
これは法律で決まっています。そして、健康診断実施は必須事項です。
だから、全ての会社は全社員に年1回以上の健康診断を行わなければなりません。行わないと、「50万円以下の罰金」となります。だから、会社は全社員に健康診断を「受けさせる義務」があるのです。

逆に社員にも【受ける義務】があります。
だから、健康診断を受けない社員に業務命令を出して、受診させなければならないのです。
これを放置すると、会社は責任を取ることになります。

例えば、「健康診断を受診しない社員を放置」、「その後、社員が病気になった」とします。
この場合、会社に責任がかかります。これが「通常の病気」でも、会社に責任がかかります。さらに、これが「過労死」に発展した場合、会社は「安全を配慮しなかった責任」を問われる可能性もあるのです。

だから、会社は健康診断の実施だけでなく、社員の受診状況も管理しなければならないのです。健康診断を受けることは「社員の義務」です。これをきちんと認識させましょう。
  • 健康診断受診も絶対です!

    • しかし、中には受診しない社員がいるかもしれません。こういう場合、「受診の拒否は懲戒処分」という就業規則を作りましょう。健康診断の受診を社員の義務とするのです。
      たとえば、次のとおりです。
      • 会社は毎年1回以上の健康診断を行う
      • 社員は正当な理由なく、健康診断を拒否できない
      • 拒否した場合は、懲戒処分を実施することがある
    • このように作成すれば、会社を守ることができるのです。また、社員も健康診断は「必ず受診しなければならない」という自覚がうまれます。もちろん、定期的な健康診断は社員のためにあるのです。
  • 健康診断の結果を報告する

    • 社員が「50人以上」の会社は健康診断の結果を労働基準監督署に報告する【義務】があるのです。
      これをしていない会社は多いですね。そういう義務があることを知らないことも多いでしょう。
      しかし、これをしないと、調査で必ず指摘されるのです。さらに、悪質な場合は「健康診断を実施しないと検察に書類送検」ということもあります。もちろん、これは社員の人数は関係ありません。それだけ重要なポイントなのです。
だから、会社も社員も健康診断をきちんと実施して、全員で受診しましょう。
 社員の安全、健康管理について

 会社が労災事故を予防、防止することは当たり前ですが、社員にも「自らの安全を確保する」ために義務が課せられている。
 労働安全衛生法の26条では「労働者の守らなければいけない措置」を明示して、これに違反した場合は「50万円以下の罰金(同120条)」を科すこととなっているのです。この自己安全義務についての判例をみてみましょう。
○名古屋埠頭事件(名古屋地裁 昭和51年10月22日)
労働者は、業務の提供を誠実に履行 することはもちろんであるが、自らの安全を確保するために安全管理の諸規定を守ることは義務である。
○柴田事件(名古屋地裁 昭和51年10月14日)
作業者としての具体的な仕事にかかわらず、建物工事につき自分や同僚の安全のために安全確認義務を負っていることは当然のことである。
判例でもわかるとおり、社員白身が自らの身を安全に守ることを義務としているのです。

 次に、社員の健康管理についてみてみましょう。
 健康管理は安全管理と違って社員自身の内面的なことであり、その原因は本人の体質等と関係するものが多いです。そのため、社員本人が自らの健康を意識し、体調不良等の自覚症状に対し、積極的に医師等の診断を仰ぐことが当然なのです。
つまり、「自分の身は自分で守れ」ということが健康管理義務の根本の考え方なのです。
しかし、「全ては本人のせいである」ということではなく、会社側にも社員に対する「安全(健康)配慮義務」があり、これを一体として考えることが大切なのです。

 これに間する裁判がある。

 <システムコンサルタント事件 最高裁平成12年10月13日>
  • 社員は入社時から高血圧であった
  • 社員はシステムエンジニアで、残業が多く月100時間以上の残業を行っていた
  • 社員はプロジェクトマネージャーを任され、その後、脳幹部出血により死亡した
  • 遺族が、過重労働が原因だとし、会社に損害賠償を求め裁判を起こした
そして、最高裁は以下の判断をしました。
  • 社員はプロジェクトマネージャーを任され、高度の精神的緊張にさらされていたので、業務との関連性は大である
  • 社員の年間総労働時間は3,500時間超で、残業は毎月100時間を超えており、過重労働が死亡の原因と密接に間わっている
  • 社員も自分自身が高血圧であることは自覚していたが、脳内出血が発症するまで、治療や検査も行わなかった
  • 社員は自らの健康保持について、何の配慮も行っていない
  • 損害賠償は逸失利益や慰謝料などで約6,000万円であるが、社員の健康管理について、何の配慮もしていなかったため、約50%の減額とした(過失相殺)
 この裁判からもわかる通り、社員の健康管理義務に対し、会社も社員に対する安全配慮義務があるので、具体的な対応が求められるのです。
 具体的には「定期健康診断を毎年必ず社員に受診させる」ことが重要なのです。
 パワハラを放置しておくと

パワーハラスメントの問題は前から存在していましたが、ここ数年は急増しています。
特に「パワハラ」と「指導」の差が分からず、会社としての対応をどうしたらいいのか?

裁判等で上司の部下に対する行動や発言で、すぐに認められるケースも増えてきたのです。
さらに、パワハラを繰り返す上司を放置しておくことで、会社としての責任を問われることもあるのです。
  • これに問する裁判があります。
  • <日本ファンド事件 東京地裁 平成22年7月27日>
  • 上司は不整脈等の持病を患っていたことから、喫煙者である部下2人のたばこの臭いが自分の持病に悪影響を及ぼすと考え、臭いを拡散させるために扇風機の風を当てていた。
  • 部下が上司の提案した作業方法を採用していないことを知り、事情を聞いたり弁明をさせず部下を叱責し始末書を提出させた。
  • 上司は本来行うべき報告がされていなかったことで、「馬鹿野郎」「給料泥棒」「責任取れ」などと部下とその直属上司を叱責した。
  • 上司は部下の背中を殴打し、さらに、商談中に叱責しながら部下の膝を足の裏で蹴った。
  • 部下は裁判に訴えた、そして、裁判所は以下の判断をしたのです。
    • 上司の行為を不法行為と認めた。
    • 会社に対して使用者責任を認めた。
    • 損害賠償総額110万円
  •  特筆することは「会社の責任」までも認めているのです。特に、会社が上司のパワハラを放置したところがポイントとなっています。
  • 就業規則にはパワハラ防止の項目の記載があるにも関わらず、事前にパワハラ予防の対策をとっていなかったこと、見て見ぬふりをしたことを重要視したのです。そして、会社はこの上司のパワハラを知ることができた環境にも関わらず、放置したことは「職場の安全配慮義務に違反」との判断が下されたのです。
  •  このように、多くのパワハラ裁判では会社の責任である「使用者責任]が広範囲に認められています。そして、使用者責任は、加害者の行為が「会社の業務について」された場合に加害者と同額の損害責任を会社に負わせるものです。まず、どのような言動、行動がパワハラになるのかを認識させることが重要となります。
  • これに関しては、平成24年1月30日の厚生労働省の報告書で、具体的な行為が示されていています。
  • 暴行、傷害などの「身体的な攻撃」
  • 脅迫、侮辱、暴言などの「精神的な攻撃」
  • 仲間外れ、無視等「人間関係から切り離し」
  • 不要、不可能な仕事を強要する「過大要求」
  • 能力よりも低い仕事を命じる「過小要求」
  • プライバシーの過度に立ち入る「個の侵害」
  •  上記のようなことを基準として「パワハラ」を判断することが重要ですが、もっとも大切なのは、上記のことを踏まえて教育研修を実施することです。上記の裁判例も「パワハラ予防のための行為がなされていない」ことを指摘しています。だから、事前の予防、早めの対策が本当に重要なのです。
 従業員が裁判員に選ばれたら 

当社の従業員がこのほど裁判員に選ばれて、数日間裁判に出席するようにという通知を受けたそうですが、出席を認めなければならないのでしょうか? 
  • 当社の就業規則には裁判員になった場合の定めがなく、公民権行使や公の職務の執行などによる休職(無給)の定めがあるだけですが、必要な休みが数日程度なので本人が年次有給休暇を充てることを申し出た場合、これも認めなければならないのでしょうか??
  • 【裁判員は公の職務】

    • 裁判員制度がスタートして3年が経過し、自社の従業員が裁判員に選ばれるケースも出てくるでしょう。
      従業員から、実際に公判への選任手続や公判に出席するために必要な休みを取ることを請求された場合、労働基準法(第7条)に定める「公の職務の執行」の範囲にあたるものとされていますので、使用者はこれを拒むことはできないことになります。
      ただし、公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻については変更することはできるとされています。
      また、裁判員で仕事を休んだことを理由に、解雇などの不利益な扱いをすることは禁止されています。(裁判員法第100条)

  • 【賃金の扱い】

    • 裁判員を理由とした休暇について有給とするか無給とするかは、使用者の判断に委ねられていますが、少なくとも就業規則や賃金規程などにその扱いを定めておくことは必要です。
      ただし公民権行使や公の職務の執行による休暇とその場合の賃金の扱いを定めていれば、裁判員の休暇にも準用できるものとされています。
  • 【年休の申出があった場合】 

    • 裁判員などの公の職務で休む日は無給の扱いとしている場合、従業員から年次有給休暇を充てたいという申し出があることも考えられます。
      年次有給休暇は、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、使用者が取得の時季を変更することはできないことになっています。

  • 【賃金と日当と関係】

    • 裁判員や裁判員候補者になって実際に裁判所に行った場合は、日当や旅費(交通費)などが支払われます。
      したがって、年次有給休暇を充てる場合、裁判員として受け取る日当と会社からの賃金の両方を受けることになります。
    • 裁判員の日当は、裁判員としての職務などを遂行することによる経済的な損失(例えば、子どもを預けるための保有料や裁判所に行くために要した諸雑費など)を一定の限度内で補償するものです。
      したがって、日当は、裁判員としての職務の対価(報酬)ではありませんので、日当と賃金の両方を受け取ることは問題ないとされています。

      また、就業規則などにおいて、法で定める年次有給休暇とは別に設定した裁判員用の特別の有給休暇を取得した場合に、裁判員として受け取った日当を会社に納付させることは、不利益取扱いに該当する可能性があります。

      ただし、裁判員用の特別の有給休暇を取得した場合に「1日分に相当する賃金額と日当に相当する額との差額を支給する。」というような賃金の扱いを定めた特別の有給休暇制度にすることは問題ないと考えられます。
 休職を命じた社員の復職の基準

社員が持病の悪化で休職を命じたのですが、休職期間満了を迎えようとしていた時、「復職可能」の診断書を一方的に送りつけてきました。
この場合、復職を認めなければならなのでしょうか?

病気やケガなどを理由として、社員に休職を命じるケースがあるが、この場合、慎重に取り扱わなければならないのが復職についてです。ここは非常にトラブルになりやすい部分です。

 まず、休職の定義を確認するが、これは「社員に業務をすることができない理由が発生したことにより」「会社は雇用関係を維持しつつも、仕事を免除すること」をいいる。

 そして、病気やケガが治って就業可能という状態になれば、復職させることになる。
しかし、病気等が治らない場合は、休職期間満了で「退職または解雇」となるのです。そこで、よくトラブルとなるのが「治る」という基準についてです。

 これに関する裁判がある。

<平仙レース事件 浦和地裁 昭和40年12月16日>
  • 足踏みミシンによる業務に従事する社員が椎間板ヘルニアとなり休職
  • 社員が再三復職を要求したにもかかわらず、会社がこれを拒否
  • 休職期間満了に伴い、会社は解雇とした
  • 社員は休職事由が消滅したとして、裁判を起こした
 そして裁判所は以下としました。
  • 復職の条件は以前の業務に従事できる程度に回復していること
  • 病状が回復したとは言い難いし、以前の業務に従事できる程度までは回復していない
  • 会社側が勝訴
 この判決後、多くの裁判で同じような判断がされてきましたが、復職する条件は「以前の業務ができるようになっているかどうか」ということなのです。それから、復職の可能性の立証責任は、復職を求める社員側にある。これを証明しなければ、復職はできないということなのです。
そして、この立証は冒頭のご質問のように、「復職可能」という診断書があるだけでは足りず、復職となる条件を満たしたことにはならないのです。特に、社員の主治医は会社の仕事をよくわかっていないのが現実なので、この見解を鵜呑みにすることは避けるべきです。

 しかし、社員としてはこのような診断書をもらう以外に立証する手立てもなかなか無く、会社としてもどう判断すべきか困ってしまう。
そこで、会社は「どうすべきか」というと、まずは復職を希望する社員に対し、就業規則に記載した復職判断の下記プロセスを伝えます。
具体的には「休職者からの職場復帰の意思確認」「産業医、主治医等からの一般論としての意見収集」「会社が休職者の状態のチェック(ヒアリング等)」「現在の職場環境のチェック」などを確認するのです。

 そして、会社が指定する医師の面談や診断を受けるように要請し復職を判断するのです。
 精神疾患による復職の基準とは?

精神疾患のため休職している社員が復職を希望したとき、復職させるか否かの判断基準とは?

 社員がうつ病等の精神疾患にかかり業務に支障がでる例は増加傾向にある。社員が精神疾患にかかると「本人も周りの社員も疲弊してしまう」という話も聞きます。
こうなる前に休職命令などを出して対応することが必要ですが、その後の「復職」についてはどのように対応すればよいのでしょうか。
例えば「休職期間が満了したが病気が治っていない」、「復職希望と言われたが、果たしてどの程度の業務がこなせるのか?」、「「今までの仕事は難しいが簡単な業務なら大丈夫」と言ってきたが、どの仕事に就かせていいのかわからない」などがある。
精神疾患は目に見えるケガとは違うので、会社としても復職の判断が難しいのです。

 そこで、参考となる裁判がある。
<伊藤忠商事事件 東京地裁 平成25年1月31日>
  • 総合職社員が体調を崩し、うつ病と診断された(実際に、対人業務に支障をきたした)。
  • 会社は就業規則により休職を命じた(休職期間は2年9ヵ月)。
  • この社員は休職期間中に復職を申し入れた(会社はトライアル出社を開始させた)。
  • この社員のトライアル出社は厳しく、継続は不可と会社が判断した(健康管理委員会で決定→人事部長、健康管理室長、産業医など)。
  • 休職期間満了日に雇用契約終了としたが、この社員はこれを不服とし裁判所に訴えた。
そして、裁判所の判断は以下となったのです。
  • 休職命令は就業規則に規定された通り、期間満了での雇用契約終了も規定されている。
  • この社員から復職可能の申し出があったが、病状回復などの休職理由の消滅は本人が証明すべきだが立証できていない(復職を申し出た場合、病状回復の証明は従業員側の義務)。
  • 社員は総合職として入社したので、総合職としての業務がこなせなければ、復職は不可との判断は妥当(健康管理委員会の決定は妥当、休職前の仕事ができなくても他の総合職の仕事ができれば復職を可能とするべきだが、今回はそれも不可だった)。
 よって、会社の主張が通り、会社勝訴となったのです。

 この裁判のポイントは「復職について主治医の診断を尊重しつつも、疑わしい部分については「徹底的に」検証している(主治医の診断と本人の申し出でトライアル出社のチャンスを与えた)」、「トライアル出社の状況から健康管理委員会で復職不可の判断を実施した」、「この裁判で「復職=休職前の職種」でなくてもOKと判断された」、「同じ属性の他の職種でも復職不可なら雇用契約終了は妥当」と判断された点です。
 復職、雇用契約終了に関する検証は「複数の目」を持って判断することが大切なことです。
さらに、復職希望者に対して「前の職場へ復帰させなければならない」と考えられがちでしたが、この裁判で「社員の属性の中で考えるべき」と判断されたことは大きいでしょう。
「総合戦の仕事は厳しいので一般職の仕事をしてもらう」ということは考える必要がなく、この場合は雇用契約終了で退職となることは妥当なことなのです。

 復職の判断について

 社員が病気等で休職となり、休職期間が満了となる前に会社は「復職できるかできないか?」を判断しなければなりません。
ただし、うつ病等のメンタルヘルスの場合、復職等の判断がとても難しいことが多いです。復職の判断に医師の診断書が欠かせませんが、判断はあくまでも会社側にあるので、その判断は慎重にならざるを得ません。
まず、原則をみると、復職とは「休職前の業務に戻る」ことを言います。しかし、復職の判断の基礎となるのが医師の診断書が、「軽作業なら可能]「短時間勤務なら可」となっていたら、会社はどのような判断をしたらよいのでしょうか?
これに間する裁判があります。
  • <片山組事件 最高裁平成10年4月9日>
    • 社員はバセドウ病になったが、通院治療を受けて現場監督業務を続けていた
    • その後、新たな現場監督業務を命じられた際に、「病気により従事できない」と伝えたら、会社は病気治療に専念する命令を発した
    • 社員は「事務作業なら行える」という主治医の診断書を提出した
    • 会社は、現場監督に従事できる記載が診断書にないので、自宅治療命令を継続させた
    • 社員はその後、現場監督に復帰したが、自宅療養期間の賃金等についての支給を求めて裁判を起こした
  • そして、最高裁は以下の判断としたのです。
    • 労働契約で業務内容が現場監督に限定されていない
    • 社員を配置できる現実的可能性のある業務が他にあったかどうかを再検討すべきだった
    • 社員には遂行可能な事務作業があり、これに配置する現実的可能性があった
    • 賃金等の請求が認められた(会社敗訴)
  •  この裁判でのポイントは「労働契約で職種や業務内容が特定されていない場合、病気や障害などで、それまでの業務ができないときは、労働者の能力、経験、地位等に照らし、配置できる他の業務があれば復職を認める」ということがはっきりしたことです。つまり、「以前の業務ができなくても、できる仕事があれば復職を認定」ということなのです。
  •  この最高裁判決以降の地裁の裁判も同じような判断となっています。
    • <JR東海事件 大阪地裁 平成11年10月4日>
      •  脳梗塞などの後遺症の案件で、裁判所は「配置転換しても一般の職員と同じ速度や密度で仕事はできないから、会社は配置、異動の工夫や、職務分担変更の可能性を考えて工夫すべきである」としています。
  •  以上のように最近の裁判結果をみると「今までの業務ができないだけで復職を認めないのはNG」「配置転換、異動などの措置を行い、働くことを続けられるようにする」ということです。
  • よって「休職期間満了後、即退職となる」と就業規則等で記載されていても、個別の事情を「十分]に考えて対応しないといけないのです。
  • 具体的にはメンタル不全の場合などは「リハビリ出社制度]などで運用することが考えられますが、個別の事情を勘案して条件を整えないといけません。段々と以前の業務ができるようにしていきましょう。
 過重労働と会社の損害賠償責任について

報道等でブラック企業という表現が飛び交っていますが、「実際はどのような会社なのか」とみてみると、
  • 「適重な労働を強いている」
  • 「残業代等を支払っていない」
  • 「社員を使い捨てる」
等のことが行われている会社ということに 集約できます。
この内容は全てが問題ですが、過重労働の防止について最近は特に強く取り締まられています。主な内容は下記等となっています。
  • 「過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等に対し、重点監督を実施」
  • 「時間外・休日労働が36 協定の範囲内であるかについて確認…違法なら是正指導を実施」
  • 「賃金不払残業がないかについて確認…違法なら是正指導を実施」
  • 「不適切な労働時間管理の場合、労働時間を適正に把握するよう指導」
  • 「重大、悪質な違反が確認された場合は送検し、公表」
 確かに、「過重労働、長時間労働は社員の健康に良くない・・・」と多くの社長は理解していますが、労災事故などが起こったら、会社の存続を揺るがすような損害賠償額が要求されることもあるのです。

 これに問する裁判があります。<電通事件最高裁 平成12年3月24日>
  • 社員は新卒で入社し、ラジオ推進部に配属となった
  • 入社した年の7月から慢性的な長時間労働となった
  • →本人が申告した残業は月60〜85時間(入社半年後から約1年間)
  • →深夜労働時間は月5〜20時間(入社半年後から約1年間)
  • →徹夜は月1〜12回(入社半年後、約1年間)
  • 帰宅しない日があるようになり、入社1年後には元気がなく、顔色も悪い状態となった
  • その後「自信がない、眠れない」と上司に訴えるようになった他、異常行動も見られた
  • 入社1年5ヵ月後に自殺してしまった
  • 遺族の両親が会社に損害賠償を請求した
  • そして、裁判は最終的に最高裁に行き、以下の判断が下されたのです。
  • 業務と自殺との因果関係については、長時間の過重労働や過酷な労働環境により精神障害を発注し、自殺に至った
  • 会社は社員の業務を定めて、これを管理する場合、兼務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して、社員の心身の健康が損なわれないように注意しなければならないが、その措置を取らなかった
  • 社員の性格が個性として通常想定される範囲内ならば、その性格を損害賠償額の算定に考慮すべきではない
  • 結論として、差し戻し審となり、その後の高裁で、最終的に会社が約1億6,800万円を支払うとの内容で和解が成立したのです。
  • 会社が負けた大きな原因の1つとして、
  • 「長時間労働を認識していたにも関わらず、勤務時間を短縮させる措置等を講じないで放置した」
  • 「上司が健康状態の悪化を知りながら、過切な対応を取らなかった」
  • ことを掲げています。この2つについては、事前に対処する方法はいくらでもあったのではないでしょうか。 
 退職願はどの時点から有効か?

ある社員が退職願を提出した後、『退職を撤回したい』と言ってきました。どうすれば、良いのでしょうか?

逆に、社長や上司が引き留め、退職願をいったん預かるということもよくあります。
では、この退職願とその効力発生の時期はどう考えればいいのでしょうか?

 まず、本題の前によく混同される「退職願」と「退職届」の違いについて解説します。
これらは一文字しか違いませんが、大きく異なります。ここは勘違いされている方が多いですから、よくお読みください。
  • 退職願‥・退職を願い出る書類
    • →「○月×日に退職したい」という「お願いする書類」
    • →退職を希望していることを表明するもの
    • →例えば、「○月×日に退職させて頂きたいと思います」と書く
    • →単なる「お願いする書類」なので、自らの意思で撤回できる
  • 退職届‥・退職を届け出る書類
    • →「○月×日に退職します」という「届出書」
    • →退職への強固な意志を表明する
    • →例えば、「○月×日に退職します」と書く
    • →退職願と違い、その旨を届け出たものなので撤回できない
    ということです。
 だから、封筒に記載されている「最後の1文字」が「願」なのか「届」なのかによって、大きく取扱いが違うのです。もちろん、内容(書き方)もタイトルに合ったものである必要はありますが。

 ちなみに、テレビなどで「辞表」を上司に提出する場面がありますが、この場合の辞表は「退職願」に相当します(該当ではありません)。ただし、社員が辞表を提出するのは法的には間違いです。なぜなら、「辞表」という書類を出すのは、役員などだけだからです。
つまり、「辞表」とは「役員などが提出する退職願」ということです。

 では、冒頭のご質問に戻りましょう。冒頭のご質問であったのは「退職【願】」です。社員からの退職願の提出は法的には「会社への労働契約解約の申し込み」となります。だから、会社が承諾すれば労働契約は解約となり、社員は退職することができます。結果として、会社が承諾する前なら撤回はOKですが、承諾した後は撤回できないことになります。

これについて参考となる裁判があります。
  • <大隈鉄工所事件 最高裁昭和62年9月>

  • 社員が自ら退職を申し出た
    人事部長は慰留したが、その場で退職願に記入、署名、捺印し提出した
    提出の翌日に社員は退職願を撤回すると人事部長に申し出た
    人事部長がこれを拒否
    裁判は最高裁までいき会社が勝訴しました。
この裁判のポイントは「労働契約の解約の申込みは、人事部長などの権限のある責任者が承諾した場合には解約合意が成立すると確認された」ということです。
 ここがポイントとなります。
 退職勧奨の実行方法とは?

もし、会社に業務成績やコミュニケーションも悪く他の社員の足を引っ張っている社員がいたらどうしますか?
  • このような場合、多くの社長は「解雇したいが…」とお話しされます。
    しかし、「訴えられたらどうしよう」、「解雇することは難しそう」と考え、なかなか実行できない場合もよくあります。

    そんな時に行うのが「退職勧奨」です。
    退職勧奨とは会社から退職を勧められることで、俗にいう「肩たたき]のことをいいます。

    退職勧奨と解雇の違いをみてみると、

    • 退職勧奨 …会社からの勧めで、社員が決断して退職すること
    • 解雇 …会社が決めて、本人に解雇を通知すること
    ということで、決定する側が異なります。

    退職勧奨は、「社員が自らの進退を決める」ことが前提ですが、実際は会社から圧力がかかっているケースもあります。
    ただし、会社としてのやりすぎはよくないですが、一度断ってもその後に交渉を続けることはできるのです。

    具体的には
    「社員が退職勧奨に応じない場合でも説得はOK」
    「暴力や嫌がらせ等の行為がなければ違法ではない」ということです。

    だから、多くの会社で「退職勧奨は難しい」と考えられていますが、そうではありません。

    難しいのは「退職勧奨に付随する行為が不法行為となるか否か」という判断基準です。
    精神的、肉体的なダメージを与え、不法行為と判断されてしまうのは間違いなくNGです。そして、暴力行為や嫌がらせはもちろんのこと、以下に挙げる例も問題となるのです。

    • 対象となる社員に対し、数人で面談して説得する
      • →圧力をかけ、強要する
    • 長時間のミーティングで、説得する
      • →社員の判断能力を奪う
    • 必要以上に何回も何回もミーティングする
      • →社員の判断能力を奪う
    • 仕事を与えず別室にこもらせる
      • →「追い出し部屋]に入れるのはハラスントである

  • 退職勧奨を実施する場合は冷静な行動が必要です。しかし、直属の上司にまかせっきりで、感情的な問題に発展し失敗することがよくあります。
    このような場面では、社長や総務部長も同席し淡々と冷静に事をすすめることが重要なのです。
    そして、その社員の今後も考えて、会社から去るメリット、会社に残るデメリットを具体的に説明することがポイントとなるのでしょう。

    繰り返しになりますが、退職勧奨で社員を説得することは「裁判でも認められている行為」なのです。会社に留めることだけが社員のためになるとは限りません。
    その会社に残り、他の社員に迷惑をかけるだけでなくいたずらに年齢を重ねれば、その社員の転職条件も悪くなります。双方のために、「お引き取り願う」ならば、早めの方がいいのです。
 退職証明書を請求されたら

解雇や退職勧奨などにより退職した労働者から「退職証明書」を請求された場合は、どのように対応すればいいでしょうか?
  • 退職証明書の意義

    • 「退職証明書」とは、使用者と労働者との間の労働契約が確かに終了していることを使用者が証明する書面をいいます。
      退職証明書が必要となる一般的なケースとしては、再就職先の会社から提出を求められたり、国民健康保険に加入する際に役所から提示を求められたりする場合などがありますが、解雇や退職勧奨などで労働者が退職を余儀なくされた場合には、その理由を文書で確認するために請求するケースもあります。
    • 退職証明書は、労働者から請求されない限り交付する必要はありませんが、請求されたときは、遅滞なく交付しなければならないとされています。(労働基準法第22条第1項)
      • 証明書の使い道は労働者に委ねられていますので、その理由によって交付を拒むことはできません。
        また、雇用保険の離職票の交付をもって退職証明書に代えることもできません。

  • 退職証明書の記載内容

    • 退職証明書の様式は自由ですが、証明するのは次の@〜Dのなかで退職した労働者から請求された事項となっています。

      • @使用期間
      • A業務の種類
      • Bその事業における地位
      • C賃金
      • D退職の事由(解雇の場合には、その理由を含む)

    • 役所に提出する目的であれば、使用期間だけで十分なケースもありますので、単に「退職証明書をください。」などと請求されたときには、作成する前にどの項目について証明が必要なのかを確認しておきます。
      また、「退職の事由」には、自己都合退職、解雇、退職勧奨、定年退職などを記載しますが、解雇の場合には、原則として、解雇の理由についても具体的に示す必要があります。

      たとえば、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、該当する条項の内容およびそれに該当するに至った事実関係を証明書に記入します。

      ただし、解雇された労働者が解雇の事実のみについて証明書を請求した場合には、解雇の理由まで証明書に記載することは避けなければなりません。
  • トラブルにならないための注意点

    • 以上のように、退職証明書を請求されたときは、記載してほしい事項(あるいは記載してほしくない事項)についてよく確認しておくことが必要ですが、証明の内容も事実に基づいて誤りなく記載することが大切です。
    • とくに、解雇などのケースでは、退職証明書に記載された解雇の理由が事実と異なっていたときや見解に相違があったときに、労働者が何らかのアクションを起こし思わぬトラブルに発展することも考えられます。
      また、退職の事由が事実に基づくものでないときは、退職証明書交付の義務を果たしたことにはならないとされます。 したがって、事実を再度よく確認して、誤解を招かないように注意して作成します。
    • また、解雇の場合には、請求されなくても、できる限り退職前に解雇の理由を明記した「解雇通知書」を出しておくことも、その後のト ラブル防止につながると言えるでしょう。
 制服に着替える時間は労働時間か?

当社は、就業にあたってば制服の着用を義務付けています。
あるとき、始業時刻ギリギリに出社し、タイムカードを打ってから制服に着替える社員がいたので、余裕を持って出社し、先に更衣を済ませてからタイムカードを打刻するように注意したら「更衣時間は早出残業になりますか」と言われてしまいました。
更衣時間は労働時間になってしまうのでしょうか?

 常識的に考えれば「仕事をするのだ」という気概をもっていれば、余裕を持って出社し、タイムカードを打刻する前に更衣を済ませておくのは当然な気がします。
しかし、「いつから労働時間なのか」ということを明確にしている会社が少ないのも事実です。
だから、就業規則等に明記する必要があります。なぜなら、誤解を生むような運用をしていると、相談の事例のように些細なことからトラブルと発展する可能性があるからです。
次のように定めることにより、着替え等を済ませて作業を開始できる時刻が始業時刻となるのです。
  • 「始業時刻とは始業準備(着替え等)を整えた上で実作業を開始する時刻をいい、終業時刻とは実作業の終了の時刻をいう」
 さらに、法的にはどのようになっているのかをみてみましょう。これに関する裁判が以下となっています。

<三菱重工業長崎造船所事件 最高裁 平成12年3月9日>
  • 会社は就業規則で1日の所定労働時間を8時間と定めていたが、以下の時間は労働時間ではないとした。

    • →更衣所での作業服および保護具等の装着
    • →準備体操場、資材等の受出し
    • →業務終了後の作業場から更衣所までの移動、作業服および保護具等の脱離
  • 労働者は、これらの行為に要する時間は法的に労働時間に当たり、1日8時間の所定労働時間外に行った行為は時間外労働と主張し、割増賃金を請求する訴えを提訴した。
    •  そして、最高裁は、次の判断を下したのです。
  • 次の時間は労働時間である

    • →更衣所での作業服および保護具等の装着
    • →準備体操、資材等の受出し
    • →業務終了後の作業場から更衣所までの移動、作業服および保護具等の脱離

  • 会社が敗訴
 最高裁は「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいう」と判断しています。
この裁判で「使用者の指揮命令下」に置かれているかいないかが争点となったのです。そして、会社が特定の場所を指示して更衣等を義務付けていたことで、「労働者を指揮命令下に置いている」と判断されたのです。

 もし、準備体操等の取り扱いについて、「労働時間としない」場合は、出席を強制しないこと、遅刻しても賃金からその分を控除してはいけないのです。
 労働者代表者の選任方法で異論が出た
このほど、法律に基づいて、定年後再雇用制度の対象者の基準に関する労使協定を締結し、社内に公表しましたが、従業員代表者の選任方法をめぐって、一部の従業員から「適切な方法で選ばれていないのではないか」という異論が出ました。
2ヵ月前に締結した「36協定」の従業員代表者を指名したのですが、何か問題になるでしょうか?
  • 【過半数を代表する労働者の選任方法】

    • 労働基準法では、労使協定を締結するときの労働者側の当事者は、その事業場の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、そのような労働組合がなければ事業場の労働者の過半数を代表する者と定めています。
      この場合の「労働者」とは、パートタイム労働者やアルバイトなどを含むすべての労働者をいいます。また、「労働者の過半数を代表する者」とは、次のような者を指しています。

      1. (法第41条第2号に規定する)監督または管理の地位にある者でないこと
      2. 労使協定の締結当事者、就業規則の作成・変更の際に使用者から意見を聴取される者等を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続によリ選出された者であること
      選任の方法は、「投票、挙手」のほかに、労働者間の話し合いや持ち回りでの決議など、労働者の過半数が代表となった者の選任を支持していることが明確になるような民主的な手続であれば、適切な方法だとされています。

      これは、代表者が使用者の意向によって選任されないようにするための要件ともいえるものです。
  • 【選任はその都度行うことが原則】

    • 代表者の選任の時期とその任期については、労基法に定めがなく、原則として、協定の締結や就業規則の意見聴取ごとにその都度選任するものとされています。

      しかし、選任の手続が適切であれば、選任についての規程などを定めたうえで、任期制をとることも差し支えないとされています。
      この場合、実質的に協定締結の日において在籍する労働者の過半数を代表することが必要となりますので、任期中の労働音数の変化や人退職の可能性も考慮して、あまりにも長期間ではなく、たとえば1年程度の適切な期間を設定し、毎年改選の手続も踏むようにするべきでしょう。
  • 【より適切な選任方法でトラブルを防止】

    • 今回のケースのように、任期制をとらずに、ある協定で適切に代表者に選任され締結の当事者となった従業員を、別の協定を別の時期に締結する際に会社が指名することは、その協定における当事者としての要件を満たしているとはいえません。

      特に、協定の種類が異なる場合や、同一の協定であっても内容が大きく変更されるような場合には、各従業員がどういう人が代表者にふさわしいかを判断する余地が必要ですので、その都度適切な方法で選任するか、任期制をとったとしても、労働者側で代表者に関して継続的な協議を行うことができるようにすれば、選任方法に関して無用なトラブルを招くことにはならないでしょう。

ページトップへ